当たり前の幸せ

wagner_gotterdammerung_bohm.jpgポジティブ心理学では「当たり前の幸せ」について考えるワークがあるが、例えば普通に3食食べることができて生活できているということ自体とても幸せなことで、もっというなら今の時代に日本という国に生を得たことそのものが最大の幸福だということを見逃してはいけないとつくづく思う。もちろんミクロでは不満や愚痴はそれぞれあろう。それでも地球の歴史を24時間で換算した場合、午後11時59分30秒くらいに農業が始まり、午後11時59分59秒頃にようやくエジプト文明が栄えるというわけだから、人の人生などというのは実にとるに足らないもの、そう100分の2秒くらいというわずかなものに過ぎないということを知ったほうがよい。そんな風に思うと過去にとらわれてくよくよするのも愚の骨頂だし、未来について不安を抱きネガティブになるのもおかしなことだと心底思えるから。

地下鉄を降り、いつものエレベーターで地上に出る直前、自分がいかに幸せなのか、頭に過った。誕生日のブログのコメントには父をはじめ何人かの方からコメントをいただいた。さらに、携帯電話には何人もの方から「おめでとう」メールが入った(一日遅れの今日ですらありがたいことに何人もからメールをいただける)。たくさんの方々から支えられてきたという事実、そして今も支えていただいているという事実があって今ここに自分が存在していることを何だかあらためて実感した。

人の運命というのはわからないものだ。いつ死が訪れるのかは誰にもわからないが、ただし、死というものをマイナスに捉える必要はない。宇宙と人間は相似形だから。地球には昼と夜があるが、太陽は夜になっても見えないだけで実はそこに存在している。人の魂も死んだからといってなくなるわけではない。ただ見えないだけなのである。言うなれば、死とは夜の世界であり、生とは昼の世界。夜、静かに英気を養い、昼活き活きと活動することが大切だ(現代社会の問題のひとつは、街が休みなく動き続けていることだろう。それによって24時間休みなく、人によっては昼夜逆転した生活を送らざるを得ない、そういう状況を作ってしまったことだろう)。

リヒャルト・ワーグナーの孫として長年にわたりバイロイトに君臨したヴォルフガング氏が一昨日亡くなったようだ。享年90歳。大往生である。追悼の意を表して久しぶりにベームの「指環」でも聴いてみようかと取り出した(残念ながらこの時の演出はヴォルフガングのものではなく兄のヴィーラントのものであるが、20世紀のワーグナー歌手が勢揃いした記念碑的名録音なのであえてこれにした)。

14枚組の最後の1枚、すなわち「神々の黄昏」の第3幕第2場以降をじっくりと聴いた。実演舞台ならではの実存感と臨場感が素晴らしい名録音。

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」第3幕より
ヴォルフガング・ヴィントガッセン(ジークフリート)
トーマス・スチュワート(グンター)
グスタフ・ナイトリンガー(アルベリヒ)
ヨーゼフ・グラインドル(ハーゲン)
ビルギット・ニルソン(ブリュンヒルデ)
マルタ・メードルほか(ヴァルトラウテ)ほか
カール・ベーム指揮バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団

まさにライヴのベームの面目躍如たる勢いのある理想的「指環」。僕はほぼ同時期にリリースされた最初の全曲録音であるカルショウ&ショルティの「指環」よりも好き。エゴの象徴であるラインの黄金
で作られた指環を軸に登場人物がそれぞれ災いに巻き込まれ、最後は神すらも没落してゆくという壮大な設定もさることながら、最後は言葉不要の「愛による救済」だけが残るというのが意味深い。この歳になると「指環」全曲はしんどいが、たまに聴きたくなるときには「黄昏」の終幕を聴くだけ(だけとはいえ1時間以上かかるのだが)で十分満足感がある。


7 COMMENTS

雅之

おはようございます。
国家でも、組織でも、スポーツのチームでも、何ら現状への不満のないお気楽な楽観論者ばかりでは、改革を進めたり勝利には導いたりは出来ないと思います。過度な楽観主義にも悲観主義にも、私は与したくないですね。
特に戦後の我々日本人の、結果オーライで過剰な楽観主義が、このようなただ天文学的数字の借金漬けだけを残しポリシーのないつまらない街並と国家にしてしまったと思うと、我が子に対して非常に申し訳なく、楽観主義の功と罪を強く思わざるを得ません。
ベームのバイロイト録音「指輪」は、個人的な思い入れも強く、最も高く評価している全曲録音です。ヴィーラントと共に、新時代のバイロイトのワーグナーに改革した最良の成果だと思っています。本当に今聴き返しても、燃えに燃えます。
某評論家がムラヴィンスキーとベームは芸格が大人と子供ほど違うと宣っておられたことを以前紹介しておられましたが、ベームのレパートリーの広さと、其々のライヴでの燃焼度の高さを考慮しただけでも、いかにナンセンスで不用意な発言であることがよくわかります。
ベームも、長嶋茂雄のような天性の楽観主義者とは対照的な、実によくボヤく指揮者だったようです。そういう意味では、そう、野村克也に何となく似ていますね。
※本日の、良薬は口に苦ーい、私のおススメ本!!
「野村の流儀  人生の教えとなる257の言葉」 (出版社: ぴあ )
http://www.amazon.co.jp/%E9%87%8E%E6%9D%91%E3%81%AE%E6%B5%81%E5%84%80-%E4%BA%BA%E7%94%9F%E3%81%AE%E6%95%99%E3%81%88%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B257%E3%81%AE%E8%A8%80%E8%91%89-%E9%87%8E%E6%9D%91%E5%85%8B%E4%B9%9F/dp/4835616898/ref=sr_1_7?ie=UTF8&s=books&qid=1269378883&sr=8-7

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ひだまりのお話

悼話§ヴォルフガンク・ワーグナーさん

リヒャルト・ワーグナーの孫として、戦後のバイロイト音楽祭を率い
てきたヴォルフガンク・ワーグナーが先週の20日に逝去した。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。久しぶりにレスが遅くなってしまいました。
4月から自宅を別にする関係で、今日は朝から今まで引越しの準備でばたばたしておりました。
>ベームも、長嶋茂雄のような天性の楽観主義者とは対照的な、実によくボヤく指揮者だったようです。そういう意味では、そう、野村克也に何となく似ていますね。
なるほど。本日は疲れからか頭が回らないので、まともなコメントができませんが、ベームと野村克也氏が似ているというのは頷けます。おススメ本読んでみますね。

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雅之

おはようございます。
引越しの準備、本当にお疲れさまです。私のほうは、一足先に、3月20日、新居への引越しを無事完了しました。運び出すCDや書籍を詰めたダンボール箱の多さには辟易してしまい、家人もあきれておりました(苦笑)。その整理で私もくたびれ果てました(笑)。
ところで、昨日の私のコメントのことですが、言葉足らずの上に空気を読まず、だいぶ誤解を招きましたでしょうか? もしそうであるのなら、深く陳謝します。ごめんなさい。基本的に、早朝パッと思い浮かんだイメージから出勤前の限られた時間の中で書いているのですが、岡本さんも御承知のように、私はわざと対立軸の向こう側から考え、テーマの理解を自分自身で立体的に深めようと回りくどいことをしていますので、どうしてもストライクゾーンぎりぎりを狙ってしまい、たまにボール玉になることがあります。デッドボールで退場にならないように注意はしているのですが・・・。岡本さんの崇高な主題を汚す意図は更々ありませんので、何とぞご理解の程を・・・。
私の真意は、「物事を運ぶ際には、楽観論と悲観論の両面でバランスよく検討し計画しなければならない」というだけのことです。
以前にもご紹介しました稲盛和夫さんの言葉、
「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」
http://www.kyocera.co.jp/inamori/management/philosophy/17.html
は、さすがに偉い人の言葉は私などとは違い、上手い表現だと感心します。
せっかく再コメントしましたので、何の脈絡もなくおススメCDを1枚。
無伴奏ヴィオラ組曲、ほか ( Max Reger )  今井信子 (ヴィオラ)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1953460
これは壮大なプロジェクトを着実に実施するため、「計画の段階で、悲観的に構想を見つめ直す必要」があり、冷静に思考を深めたい時、聴くのに相応しい曲達かもしれません。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>運び出すCDや書籍を詰めたダンボール箱の多さには辟易してしまい、家人もあきれておりました
お疲れ様です(笑)。僕の場合は妻から呆れられるどころか怒られました(苦笑)。CDは基本的に移動させないつもりなので、大半は本なのですが、自分で呆れました。「レコード芸術」も30年分を大事にとってあるので半端じゃありません(苦笑)。
今、電子書籍って流行り出してるじゃないですか。こういう雑誌類は時折データが必要で読み直したり確認したいと思うことがあるんですが、もう少し普及して「レコ芸」の過去の記事をデータベース化してもらえるととてもニーズがあると思うんですがね。
まぁ、「レコ芸」の購読者などはたかがしれた数でしょうから、やっても採算は取れないかもしれませんが。
>昨日の私のコメントのことですが、言葉足らずの上に空気を読まず、だいぶ誤解を招きましたでしょうか?
いえいえ、大丈夫ですよ。雅之さんとはブログ上のお付き合いが2年にもなりますし、何度かお会いしてお話もさせていただいておりますし、しかもいつだったかのコメントで「対立軸の想定」の話をされていましたから、真意は確実に理解しております。稲盛さんの言葉、素晴らしいですよね。
今井信子さんのヴィオラいいですよね。ヒンデミットは僕も大好きなのですが、レーガーは未聴です。聴いてみます。
いつもありがとうございます。

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ふみ

ベームの指輪は確かに良い演奏ですよね。個人的にはカイルベルトに軍配が挙がりますがベームには何よりも66年の奇跡的トリスタンの演奏があります。あの演奏、初めて聴いた時は身体の中から爆発するほどのエクスタシーを感じたのを覚えています。
今年の夏休みにもし可能ならバイロイト挑戦してきます!
その前に就活ですが。。。
p.s 稲盛さんは僕も尊敬している人物で実際に講演も聞いたことがありますがオーラというかカリスマのある方でした。

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岡本 浩和

>ふみ君
こんばんは。
ベームの「トリスタン」は最高だよね!ふみ君は若いのに偉いです!
何とバイロイト詣でに挑戦!!羨ましい!!
確かにまずは就活だね。がんばって!!

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