サラトガ音楽祭ライブ1998を聴いて思ふ

prokofiev_liszt_bartok_argerichベラ・バルトークは単なる頭の固い融通の利かない人ではなかった。他人にも動物にも、そして自然(マクロコスモス)にも優しい人間の中の人間だった。その音楽は理知に富み、時に一般の耳を惑わす傾向にあるにせよ、あらゆる音楽的イディオムが組み込まれており、数学的思考力(ミクロコスモス)と融け合うことで他の誰にも真似のできないバルトークならではの作品ができ上がった。

1938年に作曲された「コントラスツ」にまつわるエピソード。

父が着いた時、幼いローズマリーはレコードプレーヤーでダンス音楽を聴いていた。だが、父が家に入ると、シュティフィは慌ててレコードを止めようとした。ベートーヴェンやドビュッシー、そしてバルトークの曲に親しんでいる父が気を悪くすると思ったからだ。「いや、止めないでくれ」と頼んだ。父はその時のクラリネット奏者の演奏が気に入り聴いていたかったのだ。
「父・バルトーク」P222)

実にこの時の奏者こそベニー・グッドマンであり、後にヨーゼフ・シゲティともども演奏するために生み出された作品誕生のきっかけになった出来事である。この何ともジャジーな作品は、グッドマンあってのものだ。特に、ヴァイオリンの急速なフレーズによって開始される終楽章冒頭は「死の舞踏」を思わせるもので、聴く者は否が応でもバルトークならではの「民族的熱狂世界」に誘われるのである。そして、静けさを伴った中間部は、おそらくバルトークが発見したという「ブルガリアン・リズム」に支配される。何とクールな・・・。

そこで父は、こうしたリズムはブルガリアの民謡に多く見られ、小節内が等分できると思っている西洋人の耳には馴染みにくいことや、典型的な「ブルガリアン・リズム」はある拍が残りの拍と違っていて、そこにいろいろなパターンがあることを説明した。こうしたことから、譜例のリズムは8分の7拍子ではなく、8分の2+2+3拍子と表現されると言った。父はこの発見に満足げで、これをテーマとする論文で、小節内の一つの拍を延長することはダイナミックスによるアクセントが時間の次元に変化したものだと特徴づけている。
「父・バルトーク」P215)

サラトガ音楽祭での記録。アルゲリッチ、フレイレとその仲間たちという布陣。

・プロコフィエフ:オーボエ、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバスのための五重奏曲ト短調作品39
・リスト:2台のピアノのための悲愴協奏曲ホ短調S.258

・バルトーク:ヴァイオリン、クラリネット、ピアノのためのコントラスツSz.111
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ネルソン・フレイレ(ピアノ)
シャンタル・ジュイエ(ヴァイオリン)
イザベル・ファン・クーレン(ヴィオラ)
ハロルド・ロビンソン(コントラバス)
リチャード・ウッドハムス(オーボエ)
マイケル・コリンズ(クラリネット)(1998.7&8Live)

モダニズム時代のプロコフィエフの「五重奏曲」の退廃的で剽軽な響きに項垂れる・・・(笑)。ロシア革命以降の亡命時にかの第2交響曲とほぼ時期を同じくして生み出されたものだが、限りなく現代音楽に近い作品でありながら明快で愉悦的。パリでの初演が「古臭い」と不評だったことが不思議であり、何とも興味深い(外国でのこういう不評の積み重ねが彼を祖国に戻す原動力のひとつになったのだろうか)。

そして、アルゲリッチとフレイレによる「悲愴協奏曲」は、ロ短調ソナタとほぼ同種の「超絶」の極み。いかにもリストらしい楽想がそこかしこに溢れ、実演ならばさぞかし感激できただろうと空想・・・(リストの諸曲はやっぱり実演に限るとここのところ痛切に思う)。

やっぱり「コントラスツ」におけるアルゲリッチの正確でありながら奔放な遊び心を持ったピアノ演奏が圧巻。

 

 


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