リゲティの声楽作品集を聴いて思ふ

ligeti_vocal_works物事を会得してゆく上で、「守破離」の重要性をあらためて思う。
人間はどうしてもオリジナリティというものを追求したいもの。でも、「最初から」は無理だ。焦って慌てて拵えたところで、そんなものは「まがい物、作り物」に過ぎぬ。まずは基本をしっかりと。そして、その上で今度は「自立」をテーマに前にコマを進めてゆく。
本当に「離れられる」のに何年を要するのだろうか・・・。

「歌」というのは実に興味深い。バルトークやコダーイがヨーロッパの片田舎の民謡を収集しようとしたその背景には、口承文化であった「歌」を末代にまで残すためだった。人間のパルスと同化する、そして抑圧を解放し、ある時には「癒し」にもつながる「歌」の大切さを彼らはわかっていた。ここには音楽の原点がある。

ジェルジィ・リゲティの「ヴェレシュの3つの歌」から第3曲「商人が大きな鳥を連れてやって来た」を聴いて、ストラヴィンスキー、あるいはバルトークを感じた。彼がまだ学生の頃のいわば習作だ。即座に天才だと思った。そして、リゲティ自身による解説をひもといてわかった。

私は大戦のおわりに、作曲を学ぶために22歳でブダペストに出てきた。私の音楽的理想は「ハンガリー的現代性」であり、そのモデルはバルトークだった。「ヴェレシュの3つの歌」は学生としての最初の年(1946年)に書かれた。これはその後の発展の始まりを告げるものであるが、この発展はその2年後、共産党独裁の成立と共に突然中断されることになる。

1952年の「アラーニの5つの歌」にも、モダニティは引き継がれるが、しかしハンガリー的というよりどちらかというとフランス的アンニュイさ(つまりより一層西洋的であるということ)、静けさに導かれたものだ。そして、その答も彼自身の言葉のうちにあった。「社会主義国家」の中で創作を続けていくことがいかに困難であったかがよくわかる。

私は「社会主義リアリズム」を強要されても、それに距離を保つことができた。・・・当時、体制が押しつけてくる「進歩的」テキストを用いなくても済むやり方は、いくつかあった。まず一つは民謡を用いること。そしてもう一つは、レーニンが権力を掌握する前に作品を書いてしまっていたハンガリーの古典的詩人たちの詩に救いを見いだすことである。

「アラーニの歌」はまさにこの後者のケースであるが、音楽がドビュッシーやストラヴィンスキーに似ていたあまり演奏を厳しく禁止されたらしい。

リゲティは言う、最終的に「作品は自分の引き出しのために書くことにした」と。そういうことを理解して聴くリゲティの音楽は深い。

リゲティ:
・ナンセンス・マドリガル(1995.10.12-15録音)
・ミステリー・オブ・ザ・マカーブル(死者の謎)(1995.12.2-4録音)
・アヴァンチュール(1995.12.2-4録音)
・新アヴァンチュール(1995.12.2-4録音)
・夏(1996.8.24録音)
・ヴェレシュの3つの歌(1996.8.27-28録音)
・アラーニの5つの歌(1996.8.27-28録音)
・4つの婚礼の踊り(1996.8.27-28録音)
キングズ・シンガーズ
シブリン・エーラート(コロラトゥーラ・ソプラノ)
フィリス・ブリン=ジュルソン(ソプラノ)
ローズ・テイラー(アルト)
オマール・エブラヒム(バリトン)
クリスティアン・エルゼ(ソプラノ)
ローズマリー・ハーディ(ソプラノ)
エヴァ・ウェディン(ソプラノ)
マレーナ・エルンマン(メゾソプラノ)
イリーナ・カタエヴァ(ピアノ)
ピエール=ローラン・エマール(ピアノ)
エサ=ペッカ・サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団メンバー

1988年から93年にかけて作曲された「ナンセンス・マドリガル」はもはやリゲティの世界でしかない。ここでも彼自身の言葉を借りることにする。

1980年代になって、私の作曲上の地平はずっと広がった。実に多くの領域が私を惹きつけた。数学、様々な科学や文化、そして非ヨーロッパの音楽!

80年代といえば、リゲティが還暦を迎えようとする時期だ。天才はいつまでも進化を続ける。「枠」を超えることがオリジナリティの源泉。しかし、「枠」を知らなければ「枠」を超えることはできない。

※太字リゲティの言葉はライナーノーツより引用

 


人気ブログランキングに参加しています。クリックのご協力よろしくお願いします。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村


2 COMMENTS

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む