直感を信じて・・・

運命の流れに抗わず、自然に任せてみると途端に生き易くなる。
どうして今こういう事態になっているのか、あるいは過去になぜそういう体験をしなければならなかったのか、すべてに理由があり、一見失敗や挫折に思える事柄でも後々になってやっぱり必要な出来事だったんだとわかったときに、どんなことにも感謝できる、そんな幸福感に浸ることができる。
過去を回想し、苦い思い出をようやく懐かしむことができるようになった、時間が解決してくれるようなそんなフィーリングをほんの数分で癒してくれる要素がラフマニノフの音楽にはある。例えば、有名な第2協奏曲の第2楽章の身悶えするような感傷的な調べ。

何年か前、「早わかりクラシック音楽講座」でこの楽曲を採り上げた時、2つの音盤を聴き比べた。僕がいまだに最高の演奏だと思っているルービンシュタイン&オーマンディの協演盤と、巷ではすこぶる評判の高いリヒテル&ヴィスロツキ盤。その時参加いただいた方々は一様にリヒテル盤を褒め称えた。おそらく、幻想的で暗鬱としたロシアの美を表現し切っているリヒテルに対し、ルービンシュタインはもっと外面的で明快で、どちらかというと映画音楽的な雰囲気を醸し出しているがゆえ、ラフマニノフの生きざまを知った後の皆さんにとって前者の方がよりピンと来たのだろうと推測するのだけど・・・。

神無月にはなぜかロシアもの。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調作品23
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン交響楽団

1959年の古い録音だが、暗さの裏に潜む音の瑞々しさはいつまでも色褪せない。昔、高校生の頃に聴いたときは印象が薄かったように記憶するのだが、今になってようやく理解できるようになった。苦しみ、悲しみ、いわゆる否定的な感情を引き起こすような体験をいくつも繰り返して、ようやく理解可能になる表現もあるのだろう。一流の音楽作品の懐の深さを肌で感じる。例えば、フィナーレのコーダの盛り上がりは、すべてから解放され、ようやく自由になる、本当の自分になる、そんな劇的な思いがピアノに託され、管弦楽と見事に溶け合う。
いや、素敵だ・・。

カップリングのチャイコフスキーは、僕にとってはおまけに過ぎなかったものだが、若きカラヤン(ある意味全盛期の)をバックにつけての演奏は実に聴かせどころ満載。

「人間に3つの種類がある。第一は、明瞭な言葉で表現できないものは一切信じない人々であり、第二は、自分たちが幼い頃から教え込まれたことだけを信ずる人々であり、第三は、自分らが心の中に意識する道徳律を信ずる人々である。第三の種類の人々こそ最も聡明な、最も強い人々である。」
トルストイ著「文読む月日」

自身の直感を信じて・・・。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。

今はラフマニノフという、メランコリックなご気分ですか?

よく思うんですけど、悲観的になれるって、何と余裕があり贅沢なことなんでしょうね。
多くの庶民は悲観的になる余裕などなく、日常の辛いことを忘れよう、忘れようとして、
「楽観的になれ、ポジティブであれ」とひたすら願い、祈り、唱えるのですから。
悲観的になれるのは、時間のたっぷりあるモラトリアム学生か富裕層インテリの特権じゃないんでしょうか?(笑)

今日、職場の同僚の若い女性が1stヴァイオリンで、マーラー「大地の歌」他を弾くので聴きに行ってきます。
http://spiel-sinfoniker.sakura.ne.jp/
楽しみです。

私も、来年の第8番
http://mahler.nagoyaongakunotomo.or.jp/ja/part2/201207
の演奏参加に誘われています。

メランコリックな曲も、演奏する側にとっては悲観的になる余裕などないのです(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
メランコリックですねぇ、ただし前向きにですが(笑)。

>多くの庶民は悲観的になる余裕などなく、日常の辛いことを忘れよう、忘れようとして、
「楽観的になれ、ポジティブであれ」とひたすら願い、祈り、唱えるのですから。

おっしゃるとおりですね。モラトリアム学生でも富裕層でインテリでもないですが、何だか精神的には随分余裕があります。昔の高等遊民さながらですね(笑)。

アマオケの「大地の歌」、これは面白そうですね。それにしても来年は8番ですか(それも井上道義さんの指揮で)!!大したものですね。
これは雅之さんにぜひ演奏者として中に入っていただいて感想などをお聞かせ願いたいものです。

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雅之

これは、演奏参加できれば他では得難い体験になりそうなんで、今回は相当心が傾きます。
合唱も応募者が多く、今回は文字通り千人規模になりそうとのことです。

マーラーの第8番を中核になって演奏する、オストメール・フィルハーモニカーってアマオケは、「こだわり」がちょっと凄いんですよ。これまで、マーラーの交響曲第6番、第10番(クック補筆全曲版)、ブルックナー交響曲第9番(全4楽章版)、シューマン交響曲第2番(マーラー編曲版)、プロコフィエフのバレエ「シンデレラ」(完全全曲版)などの演奏歴があり、今年は、珍しい、ハンス・ロットの交響曲第1番
http://www.youtube.com/watch?v=IP6wa0OJN8Y
を演奏していますし、12月24日クリスマス・イブには、マーラー交響曲第10番を、今度はバルシャイ版で演奏するんです。この版は、私も高価なスコアを所有していますし、生で聴くのは初体験なので、必ず行くつもりです。

http://www.ostmeerphilharmoniker.com/index.php

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岡本 浩和

>雅之様
なるほど、確かにすごい「こだわり」ですね。マーラーの10番についてはまだまだ勉強不足ですが、わざわざバルシャイ版をとりあげるところが素敵です。
8番の演奏、ぜひ挑戦ください!

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