インバル&都響マーラー・ツィクルス「交響曲第9番」

mahler_9_inbal_tmso_20140315先週に引き続き、インバル&都響のマーラーを聴いた。
終演後の、怒涛の歓声と拍手喝采に感激した。
しかしながら、どうにも心がついていかなかったというのも事実。何て大袈裟な音楽なのだろう、どうにも無駄の多い作品だ、などと余計な思考が内側で渦巻く。終楽章などは、浄化と平安が見事に音化され、実に引き込まれる音楽で、インバルの棒も一際感情がこもり、都響の弦楽器群がうねりをあげ、金管群が咆哮する瞬間には身震いするほどの感動が喚起されるものの、すぐさま現実に引き戻されてしまう。引き摺るように消えゆく長いコーダにおいては、これこそ「沈黙の音」と称するものが表現されたのではと思えたのだけれど、数時間を経た今、残念ながら残っていない。

いや、これはあくまで僕個人の中でだけ起こっていることなのだと思う。いかにもコレステロール過多の楽想、あるいは大仰な編成、そして支離滅裂な調子と無駄、などなど悪くいえば、そのあたりがものすごく気になった、少なくとも今日の僕にとっては。これは演奏者の問題でもなく、会場の問題でもない。ましてや作曲者の問題でもないだろう。

若い頃のめったあの感覚がすっかり思い出せなくなってしまっているというのか。今やほとんどマーラーという作曲家にシンパシーを感じていないのだろうか・・・、そんなことすら考えた。だからこれはもう僕個人の、極めて個人的な「問題」なのだ。

東京芸術劇場リニューアル記念
インバル=都響 新マーラー・ツィクルスⅨ
2014年3月15日(土)14時開演
東京芸術劇場コンサートホール
・マーラー:交響曲第9番ニ長調
エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団

とはいえ、インバルの解釈はテンポも理想的で、颯爽としており、決して感情に陥らず、かつ、理性に傾くこともなくバランスのとれた立派な演奏だった。
第1楽章アンダンテ・コーモドの序奏から確固とした足取りで、すぐさま提示される第1主題を耳にして、晩年のマーラーの崇高な世界に今日こそは誘われることを僕は期待した。緊張の糸が途切れることなく、押しては引き、引いては押す波のように音楽は高揚するが、最初のクライマックスを迎えたあたりからすでに僕自身の内なる「糸」が切れてしまったよう。やっぱり、これは僕個人の問題だ。
第2楽章は、残念ながらほとんど記憶がない。
ここでインバルは一旦舞台袖に消えた。1,2分後、再び姿を現し、第3楽章のタクトが下ろされた。ロンド・ブルレスケの熱に冒されたような強弱と突進が繰り返される中、マーラーの狂気を僕は見た。なるほど、この楽章をもってマーラーは現世に見切りをつけようとしたかのようだ。あるいは断末魔の叫び・・・。

個人的な感情は横に置き、客観的に書いてみると、白眉は第4楽章アダージョ。現世での苦悩を乗り越え、闘いを制し、ようやく安寧に辿り着く様がこれほど見事に音楽として形作られた例はそう多くないはず。それは支離滅裂、阿鼻叫喚的な中間楽章があってこそのもの。音が消え、棒が下ろされ、数秒後、徐に拍手が始まった。

残ったのは先週と同じ思い。そこに見たのは「真実」よりもとても巧みに作られた虚構の世界とでも表現しようか。しかし、芸術などというものは半分は「作り上げられた世界」だ。いかにも深刻に捉えるのでなく、マーラーの作品を喜劇として捉えるとまた面白い切り口が見えるのかも。
ということで、7月にはクック版の第10交響曲に触れる。さて、いかに・・・。

 


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2 COMMENTS

くまがい

岡本さん、くまがいです。土曜日はお疲れ様でした。インバルはなかなか完成度の高い(上から目線ですが・・)良い演奏でしたがたしかに流れを重視したバランスのとれた演奏でした。私は3楽章の途中までは もっとこてこて、ぐちゃぐちゃとやってもらって例の天上からの音楽が救いのように聞こえるほうが好きですが。しかし都響もとても良い音だったし4楽章は大変力演でした。どうか岡本さんもショスタコの毒にあてられた結果?のマーラー不感症?を早く治してください。なお私の勘違いで、さのさんは月曜(本日)サントリーだそうです。あの日はわたなべ先生とショスタコ7番だったようです。失礼しました。
しかし学生時代に初めてインバルが日フィルを振って幻想を立川か杉並で聞いたとき、若い元気の良い指揮者だなー、と思ったのが30数年前?いまは大家ですね~ああ恐ろし―。

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岡本 浩和

>くまがい様
こちらこそ先日はありがとうございました。
「良かったですよね」「良かったはず」なのですが・・・(笑)。
どうにも不感症になっております。このままマーラーには感じなくなるのか、それともまた何か超弩級の名演に出逢って復活するのか神のみぞ知る、です。

インバルは僕も80年代末にジュネーヴのヴィクトリアホールでフランクフルト放送響を指揮するのを見たのが最初でした。かれこれ四半世紀前ですからまだ若かったですね。ドヴォルザークの「新世界」と、あと何だったでしょうか・・・。当時のプログラムをひっくり返して調べればわかるのですが、面倒なので・・・(笑)
今後ともよろしくお願いします。

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