トスカニーニの「管弦楽名曲集」を聴いて思ふ

toscanini_favorite_orchestral_worksアルトゥーロ・トスカニーニの灼熱の音楽に、僕は昔あまり良い印象を持っていなかった。どちらかというと整然として楽譜に忠実だというイメージだけが先行し、ほとんど真面に聴くことなく「趣味ではない」というレッテルを貼っていたように思う。
それは、残響のない、まったく色気のない録音のせいであることを後に知った。おそらく実演はとんでもない代物だったろう。実際、襟を正してきちんと耳を澄ますと、決してインテンポかつノーマルとはいえず、そこには「歌」もあり、「エロス」もあることがわかる。いつの時からか、トスカニーニが僕の心を捉えるようになった。

曇天からの突然の慈雨。何とも不安定な天候に、突然彼の音楽を思い出した。
厳しい中に優しさがあるんだ。冷徹なように見えて、そこには確実に温かさがある。
例えば、「管弦楽名曲集」なるアルバム。古今の、誰もが知る旋律をもつ名曲をトスカニーニが縦横に斬る。ということは単なる名曲アルバムには終わらない。大交響曲をも凌ぐほどのエネルギーと厚みと・・・。久しぶりに聴いて卒倒するほど惹かれた。

・ワルトトイフェル:スケーターズ・ワルツ作品183(1945.6.28録音)
・ウェーバー(ベルリオーズ編曲):舞踏への勧誘作品65(1951.9.28録音)
・ポンキエルリ:時の踊り~歌劇「ジョコンダ」(1952.7.29録音)
・スッペ:喜歌劇「詩人と農夫」序曲(1943.7.18(録音)
・ベルリオーズ:ラコッツィ行進曲~劇的物語「ファウストの劫罰」(1945.9.2録音)
・ヨハン・シュトラウスⅡ:美しき青きドナウ作品314(1941.12.11&1942.3.19録音)
・J.S.バッハ:G線上のアリア~管弦楽組曲第3番(1946.4.8録音)
・グルック:精霊の踊り~歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」(1946.11.4録音)
・ベートーヴェン:「エグモント」序曲作品84(1953.1.19録音)
・メンデルスゾーン:結婚行進曲~劇音楽「真夏の夜の夢」作品61(1947.11.4録音)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

「スケーターズ・ワルツ」などしっかり聴くのはいつ以来だろう?この通俗名曲が実に沁みるのである。あるいは「G線上のアリア」や「精霊の踊り」も・・・。粘ることなく颯爽としたテンポでありながら不思議な哀しみに満ちる音楽たち。
しかし、さすがにベートーヴェンは別格だ。冒頭の金管を強調した和音から背筋に電気が走るような衝撃。そして、主題を迎えての弦の柔らかな響きとティンパニの乾いた轟き。コーダの息詰まる切迫感・・・。どこをどう切り取っても血が噴出するかのような有機的な音楽が続く。
圧巻は何と「結婚行進曲」。この音楽はもはやクラシック音楽の範疇を超え、メンデルスゾーンの作品であることすら知らない人も多かろうが、こういうポピュラーな作品が実に意味深く奏されるのだ。トスカニーニ万歳!

 


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2 COMMENTS

畑山千恵子

トスカニーニは典型的な19世紀ロマン主義的な演奏を否定、作品そのものを客観的に見つめた演奏を推し進めました。そのせいか、宇野功芳氏は評価しませんでした。しかし、カラヤンはトスカニーニから出発して、自らの演奏様式を築いていきましたね。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
一般的に楽譜に忠実、客観的といわれますが、実に主観的な指揮者だと思います。
カラヤンはその様式を真似ようとしましたが、出てきたものは似ても似つかないもので・・・。

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