村治佳織の「コントラステス」を観て思ふ

contrastes_kaori_muraji村治佳織の「コントラステス」が素晴らしい。舌腫瘍ということで現在長期療養中の彼女だが、当時23歳の村治の繊細かつ静かな情熱に満ちる演奏とスペイン情緒溢れる映像が見事に組み合わされ、「マエストロ・ロドリーゴへのオマージュ」という副題の通り、この20世紀スペインの誇る盲目の作曲家の孤高の世界を堪能させてくれる。何と幻想的で、何と尊敬の念と愛が横溢することか・・・。

ホアキン・ロドリーゴが亡くなって早くも15年が経過。いかに人として魅力的だったかを娘のセシリアがインタビューに応える。そして、村治自身も亡くなる半年前のロドリーゴに会い、握手を交わした時、憧れの偉大な作曲家と同じ時代を生きていることを実感し、同じ空気を吸っていることに感動したという秘話までが。

彼の墓碑銘は、19世紀のフランス詩人アルフレッド・ド・ミュッセの言葉から引用されているそうだ。

妻に全幅の信頼を寄せた夫の心(ここにあり)
私の杯は小さいけれど、私は私の杯でいただきます

幼少期に失明し、身近な人の「力」というものを身に染みて感じていたであろう大作曲家の謙虚で慈悲深い想いが直接に伝わるようだ。
ちなみに、村治が録音した「ロドリーゴ作品集」を聴いて、ロドリーゴ自身はとても感銘を受けたそう。そして、彼女宛に次の文で結ばれる手紙を送ってきたのだと。

あなたを私の作品の演奏家のうちに数えることができるのは、私の幸せです。

この言葉がロドリーゴの人間性のすべてを表す。これに応えようとばかりに村治は一層腕に磨きのかかったギターを手紙から2年半後に披露する(すでに作曲家はこの世にいない)。

コントラステス~マエストロ・ロドリーゴへのオマージュ
・ロドリーゴ:アランフエス協奏曲
・ファリャ:ドビュッシー讃歌
・ロドリーゴ:古風なティエント
・ロドリーゴ:祈りと踊り
・E・サインス・デ・ラ・マーサ:暁の鐘
・ロドリーゴ:小麦畑で
・トゥリーナ:ファンダンギーリョ
・ファリャ:粉屋の踊り
村治佳織(ギター)
ホセ・ラモン・エンシナル指揮マドリッド州立交響楽団
ジョアン・リエドベッグ(映像監督)(2001.6収録)

華奢な身体と腕と指と・・・。映像に観る彼女は小さく美しい。しかし、一たび演奏が始まると、眼光は鋭くなり、微動だにしない姿勢で、20世紀の類稀なスペイン・ギター音楽たちが奏でられる。

それにしても久しぶりに耳にした「アランフエス協奏曲」は優しい。有名なアダージョの、ギターとイングリッシュ・ホルンの掛け合いによる主題が実に印象的で哀愁感に満ち、思わず釘付けになるほど。白眉は3曲収録されたロドリーゴのギター独奏作品だ。特に、ファリャの没後15年時に書かれた「祈りと踊り」の深遠さは随一。たった1本のギターでこれほどまでの「心と情景」を描くことができるというのは、それこそ光を失ったロドリーゴならでは。もちろん村治の演奏がものをいうのだけれど・・・。

 


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