小説でも映画でも、人間社会の、あるいは人間の深層にある「闇」を追った作品は実に面白い。当然そこには作者なり監督なりの「思想」が反映される。手放しで賞賛できるか否かは別にして、彼らの作品を通じて問題提起する姿勢は大いに評価されて良い点だろう。
オーストラリアの原住民であるアボリジニへの差別問題を描写した”The Rabbit-Proof Fence(邦題:裸足の1500マイル)”という2002年公開の映画。時は、白人とアボリジニの混血児を、「福祉政策」と銘打って親からの引き離しを行い、1500マイルも離れた施設に隔離するということが法の下公然と行われていた1930年代のこと。原題の” The Rabbit-Proof Fence”というのは「うさぎ除けフェンス」のことであり、それはすなわち子どもたちが簡単に施設から脱走できないようにする鉄条網フェンスを指すのだが、 3人の混血少女たちがこのフェンスをつたって、1500マイルの道のりを、母親たちが霊的な儀式をしながら待つコミュニティに帰ろうとするという物語だ。
残念ながら僕はこの映画を鑑賞する機会を逸しており、詳細は語れない。しかし、音楽を担当したのがピーター・ガブリエルであることから当時すぐさまサウンドトラックを入手し、繰り返し聴いた。確か”Birdy”、”Passion”に次ぐ、ピーター3枚目のサウンドトラックだと思う。世間の評価は横に置くとして、僕はピーター・ガブリエルのいわゆるインストゥルメンタル作品の傑作のひとつだと太鼓判を押す。
Music from THE RABBIT-PROOF FENCE
Peter Gabriel:Long Walk Home
ピーターはほぼ全曲でキーボード(&ピアノ)を披露するのみだが、いくつかのトラックでヴォカリーズを披露する。例えば、”Gracie’s Recapture”におけるそれはわずか数十秒のことだが、何とも哀しみを湛えた「声」に僕は圧倒され、彼の声が眼前に現れ、そして颯爽と消えゆく様に心を動かされる。続く、”Crossing the Salt Pan”の瞑想的な音の流れと、一種不気味な音調、あるいは原住民族の心の叫びを音化したような響きにひれ伏さざるを得ないほど。
さらに、”The Return Parts 1, 2 and 3”の高揚感は映画のシーンをまざまざと想像できるほど描写的で感動的。”Ngankarrparni (Sky Blue – reprise)”の祈りの深さ・・・。
白眉はアボリジニの祈りを表すかのような短い序奏である”The Rabbit – Proof Fence”(このトラックのみピーターは演奏に参加していない)から終曲”Cloudless”に至る7分ほど。これはそれまでの楽曲の主題がリプリーズされる一種の変奏曲だ。
このアルバムはどこをどう切り取ってもアーティスト、ピーター・ガブリエルの真骨頂であり、創造者ピーター・ガブリエルの天才が光る。
久しぶりに聴いて思った。やっぱり映画を観なければ・・・。