ロビン・ブレイズのバード「コンソート・ソング集」を聴いて思ふ

byrd_concort_songs_blaze_concordia梅津時比古氏は、「アトム・ハーツ・クラブ」と題するエッセーの中で次のように書く。

エレクトリックな処理が加わったギターは、全く新しい楽器だった。それは、これまで隠されていた響きを電気増幅することにおいて、心のなかに隠されていた潜在意識を引き出すことに類似し、音の自然減衰やブレス(息遣い)から解放されることにおいて、社会の規制から解放されることに類似していた。
ビートルズが開いた新鮮な音、取り戻した美しい和声に、ロック界が飛び付いた。とりわけ、この楽器の音を引き伸ばせる特質を活用し、無限への想念と感性を、拡大した。ワーグナーが主和音へ解決しない技巧を尽くして得た無限感を、ピンク・フロイドは2つ3つの和音を延々と繰り返すことで、得てしまった。
梅津時比古著「フェルメールの音―音楽の彼方にあるものに」(東京書籍)P40-41

「無限への想念と感性を、拡大した」というところが重要。おそらく人類がどの時代においても音楽に求めていたものはそれだろうから。ビートルズは新しく古い。そして革新的で保守的だ。

16世紀の、ウィリアム・バードの「コンソート・ソング」には、ビートルズが木霊する。いや、違う。ビートルズが400年の時を超え、電気楽器に持ち替えてバードの想いを音化するのだ・・・。ちなみに、ビートルズのラスト・アルバム「アビーロード」の最後のトラックは”Her Majesty”というタイトルの、女王陛下をアイロニカルに愛情をもって賛美する歌。エリザベス朝時代の大英帝国が源流となり、文化、芸術、あらゆるものが現代のイングランド(ロック界におけるブリティッシュ・イノヴェイション)につながっているだろうことを象徴するようだ。

ウィリアム・バードの音楽は大らかで哀しい。
聖なるマスターピースも俗なる音楽も同様に深淵を覗くよう。真っ暗闇に一条の光が差す。
聖母マリアがイエス・キリストに贈る子守唄、“Lullaby ‘My sweet little baby’”(おやすみ、かわいい幼な子よ)には、”She’s Leaving Home”の影が・・・。何という慈愛・・・。

バード:コンソート・ソング集
・主に向かいて喜べ
・ああ、おろかな魂よ
・年老いたご婦人が
・ああ、いとしい命のひとよ
・悲しみよ、永遠にわれに来たれ
・恋をしたいと思っている誰が
・おお、希有で率直なそれを通じて
・世界はすべて海のよう
・聖なるミューズたちよ
・貞淑なペネローペ
・ああ神よ、汝は輝ける太陽を導き
・おやすみ、かわいい幼な子よ
・死ぬべき人間がする苦労というのは何とむなしい
ロビン・ブレイズ(カウンターテナー)
コンコルディア(2003.4.30, 5.1-2録音)

“Rejoice unto the Lord”(主に向かいて喜べ)には間違いなくヘンデルが聴こえる。
脈々と続く英国音楽のルーツを遡る時、必ずウィリアム・バードに辿り着き、結果トマス・タリスに行き当たるということか・・・。

ところで、この音盤のジャケットにはフェルメールの「リュートを調弦する女」が使われる。
同じく梅津時比古氏の「フェルメールの音」と題するエッセーから。

音が止まる瞬間がある。その時、音は落ちずに空中に貼りついていて、それを支えている空気や光のあやうい均衡が、見渡せる。それは音楽が流れているさなかにも、時折、起き、音に照らされたいろいろな絵を、一瞬、見せてくれる。
梅津時比古著「フェルメールの音―音楽の彼方にあるものに」(東京書籍)P10

何という詩的でイマジネーション豊かな描写!!

静けさのなかでしか音は聞こえない。光や空気や壁が調和して音は響き、机や椅子や人など、世界のすべてのものは、共鳴する音を内在させている。それらの真理を、フェルメールは宙に浮かぶ音を描くことによって、静かに刻印している。
~同上書P11

言い得て妙。「静けさのなかでしか音は聞こえない」。生きることの幸せ。この当たり前のことを、フェルメールよりも1世紀早く生まれたウィリアム・バードの音楽を聴いてあらためて思う・・・。

 

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