ジ・アート・オブ・ワディム・レーピン《レーピンwithクニャーゼフ&コロベイニコフ》

the_art_of_vadim_repin_20141127036「3人寄れば」とはよく言ったものだ。
どんなコンサートになるのか、正直まったく見当がつかなかった。
かつてのレーピンの壮絶なパフォーマンスは影を潜めていたものの、メイン・プログラムであるチャイコフスキーの三重奏曲には心底感動した。前半のプログラムを聴いて、ピアニストとの呼吸がいま一つ合わず、ちぐはぐな印象を受けていたものだから若干の不安はあったが、それはまったくの杞憂となった。確かにワディム・レーピンの繊細でありながら豊潤な響きは素晴らしかったのだけれど、何と言ってもアレクサンドル・クニャーゼフの、前のめりの情熱的な演奏に痺れた。第1楽章冒頭の憂いある有名な主題に惹かれ、第2楽章変奏曲の静かに燃える様に釘付けになった。ここではレーピンのヴァイオリンも雄弁。そして、やはりピアノ主導の作品だけあり、随所に蠢くピアノの繊細かつ堂々たる(?)響きに心動かされた。何よりコーダにおける第1楽章の主題の回帰に見る懐かしさと切なさに思わず涙がこぼれたほど。

ジ・アート・オブ・ワディム・レーピン
レーピンwithクニャーゼフ&コロベイニコフ

2014年11月27日(木)19:00開演
すみだトリフォニーホール
ワディム・レーピン(ヴァイオリン)
アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)
アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)
・ラフマニノフ:悲しみの三重奏曲第1番ト短調
・チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ(チェロ&ピアノ)
・ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
・ラヴェル:ツィガーヌ
~アンコール
・ポンセ:エストレリータ(ハイフェッツ編曲)
休憩
・チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲イ短調 作品50「偉大な芸術家の思い出に」
~アンコール
・チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲イ短調 作品50~第2楽章第3変奏
・J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調BWV1008~サラバンド
・クライスラー:中国の太鼓

率直に書くと・・・、レーピンの調子は決して良いとはいえなかったのかも。当初予定されていたショーソンの「詩曲」をドビュッシーのソナタに変更した理由もよくわからなかったが、そのドビュッシーですら線の細い、弱い、あまり面白味を感じる演奏でなかったことがつくづく残念。ラヴェルのツィガーヌも、エキゾチックな旋律、音調の表現を果敢に挑戦しようとする姿勢は好感持てたものの、出てきた音楽はどうにも真面目過ぎて面白みに欠けていたことは否めない。やっぱりピアノが遠慮がちで、ヴァイオリンと合っていないのである(最後ずれがあったし)。そんな中、やはりクニャーゼフの「アンダンテ・カンタービレ」は素晴らしかった。フレーズごとに唸り、感情移入するこの人のパフォーマンスはどの瞬間も温かかった。

ラフマニノフ若書きの三重奏曲はとても良かった。
現代ロシアの精鋭たちの三つ巴による、鬱蒼と生い茂る森林に包まれた酷寒の大自然の情景が眼前に現れると思いきや、霧雨の晴れた、まるで今日の燦然と輝く太陽のような、実に爽快で明朗な音楽が出てきたものだから正直驚いた。単一楽章で、しかも内容がシンメトリーとなるこの作品は、明らかにチャイコフスキーの三重奏曲の影響を受けているが、それにしてもピアノ・パートは明らかにラフマニノフ独自の超絶的なもの。3人の息がぴったりと合う瞬間のカタルシス。そこにこそ三重奏曲の醍醐味があった。やっぱり「3人寄れば」なのである。

驚きはクニャーゼフのアンコールでのバッハ。これほどに芯の太い、そして響きの柔らかいサラバンドにはなかなか出会えまい。何より真摯に作品に向き合うチェリストの姿勢に感動させられた。

 

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