若きブラームスの血潮

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一昨日、女性の作曲家っていないんですかという質問を受けた。なるほど、日常的にクラシック音楽を聴かない人たちにとっては極めて素朴な疑問だろう。しかし、長年クラシック音楽を愛好してきた僕でも、そういう疑問をもったことはあるものの、なぜかあまりそのことについては深く追究してこなかった。それこそ、このブログを始めてから貴重な情報をいただく中で、女性作曲家のことについてもほんの少しだが考えさせられるようになった。最初は、2年半ほど前に「早わかりクラシック音楽講座」でメンデルスゾーンを採り上げたとき、実姉のファニーについてのことがアンテナに引っかかったことだろうか。それから、いつもコメントをいただく雅之さんからリリ・ブーランジェの素晴らしさを説いていただき、彼女たちの音楽を音盤で聴くに至り、その素晴らしさにある意味唖然とし、そしてそれまで彼らの音楽を顧みることがなかった自分自身に愕然とし、反省すると同時に、ともかくもっといろいろな角度で、差別なく音楽を楽しみたいと思わされたのである。
例えば、クララ・シューマンのことについても、ロベルト・シューマンの妻であり、ブラームスとも何らかの関係があったことなど、人となりや生涯についてある程度の把握はしていたが、何せその音楽まで熟知しようなどとどういうわけか考えたことがなかった。決してレベルが劣る作品でないし、むしろ同時代の男性作曲家と比べても全く引けをとらない高みに達しているものもあるくらいなのに。

そんなこんなで、先日ご紹介いただいた「女性作曲家列伝」(小林緑編著)を手に入れ、少しずつ読んでいるが、これまでの歴史が才能ある女性作曲家を単純に葬り去っていただけなんだということがわかって興味深い(これこそ女性蔑視・・・、音楽自体が女人禁制の教会から派生したものだから、無言のルールが背景にある以上致し方ないというのもわかる)。

昨晩、ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの項を読んでいて驚いた。「無言歌集」の随分多くはファニーの作曲だというではないか(それは弟のフェリックスもはっきり認めているということだが)。少なくとも19世紀前半においては上流階級の子女はたとえ作曲であろうと、働いてお金を稼ぐことはタブー視されていたという時代背景もあるようだから仕方ないことだとはいえ、もっと彼女たちの成果にスポットライトを当てても良いんじゃないかと思った(というよりまず僕自身がもっとまじめに彼女たちの音楽を聴くべきなのだろうが)。

残念ながら現時点ではリリ・ブーランジェ、ファニー、そしてクララの作品が収められている何枚かの音盤しか所有しない。しかもそれほど聴き込んだわけではないので、簡単に語れない。奥が深い。少し勉強しよう。

ということで、今日のところはロベルトとクララの愛弟子であるヨハネス・ブラームスの音楽を。秋深まりゆく今頃はやっぱりブラームス。

ブラームス:
・ピアノ五重奏曲ヘ短調作品34
・ピアノ四重奏曲第3番ハ短調作品60
ヤン・パネンカ(ピアノ)
コチアン四重奏団

ブラームス唯一のピアノ五重奏曲は20歳の頃のめり込んで聴いていた。頻繁に聴かなくなって長いが、久しぶりに聴いてみると、若きブラームスの血潮が全編に溢れ出すかのような(何という表現!・・・笑)傑作。1864年夏、バーデン=バーデンにおいてクララとの共演により2台ピアノ版がヘッセン王女の御前で演奏され、王女に献呈された。1998年夏に僕はバーデン=バーデンを訪れ、ブラームスがクララとの逢瀬を楽しんでいたであろう夏の家やクララの家があった場所を周った。その時からブラームスとクララとの間には口外できない「秘密」が絶対にあると感じ取っていた。そう、ピアノ五重奏曲はどうも2人の「愛の結晶」なのではないか、そんなように思うのである。

※追記
メンデルスゾーンの「無言歌集」の大半がファニー作であることは2年半前のブログのコメントで雅之さんに教えていただいていたようだ。すっかり忘れていたけど(汗)。

3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
次の方のブログ内でのご指摘はあまりにも鋭く的を射過ぎていますね(拍手!)
http://82277.diarynote.jp/200911021706592509/
「最後に、ファニーですが、彼女の作品を聴いていると、草食系のモヤシ少年フェリックス・メンデルスゾーンに絶大な影響を与えたであろう強烈な個性と才能を持った肉食系の姉という姿が浮かび上がってきます。一曲目は対位法的な構築感のある力強い書法が印象的で、森下さんが解説していたとおりファニーのフーガはバッハのような神性を帯びた厳格なロジックで組み立てられたものというよりは、ベートーベンのようなもっと人間臭い感情の発露のようなものも感じられ、男性的な逞しさが漲っているような印象があります。左手のバス声部がステキ。三曲目と四曲目はピアニスティックな華やかさのある力強く爽快な曲想に惹かれました。育ちが良いと、こういう屈託のない曲が書けるのかもしれません。
偶々、今回採り上げられた女性作曲家の作品がそうだっただけなのかもしれませんが、男性作曲家の作品に比べて女性作曲家の作品はウジウジとしたところがなくカラッと爽やかで潔く、おまけに力強い曲想が多いように感じられました。本来、女性というのはそうしたものなのかもしれませんが。」
さて今朝は、私が今密かに、その作品に最も感嘆し心底惚れ込んでいる現役の女性作曲家をご紹介します。
その名は、アラ・パヴロワ[1952-]。
所謂前衛的作風ではありませんので、彼女の作品はクラシックファンに限らず、あらゆる音楽ファンにお薦めしたいです。
とにかく、今回も騙されたと思って(笑)、CDが出ている彼女の全作品を、とにかく全作品を入手し聴いてみてください(気に入らなければ、私が2週間以内に買い取ります・・・笑)。現在の私にとって、新作の発表を最も心待ちにしている作曲家です。
http://www.hmv.co.jp/search/index.asp?keyword=%83p%83%94%83%8D%83%8F%81A%83A%83%89&site=&target=SEARCH&type=sr
彼女の作品も「人類の至宝」です!!

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
また面白いサイトのご紹介、ありがとうございます。
雅之さんの旺盛な知的好奇心に乾杯!というところです。
アラ・パヴロワ俄然聴いてみたいです!しかし、こういうコアな情報を見つけられる嗅覚には毎々恐れ入ります。ありがとうございます。

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