ベイカー&レッパードの「1971年オールドバラ・リサイタル」を聴いて思ふ

baker_leppard_1971_aldeburgh197レイモンド・レッパードのオールドバラ音楽祭への回想が興味深い。程よい緊張とストレスが人間にもたらす効果というのはいかばかりか。特に、人前でパフォーマンスをし、聴衆に喜びを与え続ける立場になる人は本当に肝が据わっている。

1996年、レッパードはこのコンサートのことを次のように語った。
「オールドバラ音楽祭での演奏はいつどんな時も手強かったですよ。ベン(ブリテン)とピーター(ピアーズ)が会場に正装でいるんですからね」。そして、2007年にもこう言っている。「コンサート前はいつも緊張していました。しかし、その経験こそが大いなる糧になっている。だからこそ私たちは演奏したのです!」

同年6月の、ベイカー女史のレッパードとの協演にまつわるコメントも素敵だ。

「彼とのコラボは大いなる喜びに満ち溢れるものだったことが忘れられません」

清楚で高尚で、デイム・ジャネット・ベイカーの歌声は本当に美しい。
そして、おそらくブリテンもピアーズもその場で聴いていたであろう1971年「オールドバラ音楽祭」でのリサイタルの記録は、ルネサンスからバロック、そしてロマン派、近代に至る幅広い種々の歌が採り上げられており、見事の一言。

ベイカー&レッパード 1971年オールドバラ・リサイタル
モンテヴェルディ:
・あの蔑みの眼差しSV.247(レッパード編)
・苦しみが甘美なものならばSV.332(レッパード編)
・面影よ、呪われよSV.246(レッパード編)
グラツィアーニ:カンタータ「棕櫚のように、薔薇のように」
ミスター・バーリングクルー:賛美歌「エホバの御代」
ハンフリー:汝、その罪をゆるしたまえ(父なる神への讃歌)
パーセル:
・おお、私をどこかしずかな木陰へ連れて行っておくれ~劇音楽「ボンデュカ、イギリスの女丈夫」Z574
・追い求める美~劇音楽「アンソニー・ラヴ卿、逍遥する御婦人」Z588
・ああ、無情な、残酷な運命よ~劇音楽「テオドシウス、愛の力」Z606
シューベルト:
・妹の挨拶D.762
・アリエッタ「恋はいたるところに」D.239-6
・アリエッタ「あちこち矢が飛び交っています」D.239-3
・沈みゆく太陽にD.457
・リンツの試補ヨーゼフ・シュパウン氏へD.749
フォーレ:
・マンドリン作品58-1
・ひそやかに作品58-2
・夕暮れ作品83-2
・捨てられた花作品39-2
グノー:セレナード
ヘンデル:ああ、私にユバルの竪琴があれば~オラトリオ「ジョシュア」HWV.64
ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
レイモンド・レッパード(ピアノ、ハープシコード)
ジョイ・ホール(チェロ)(1971.6.14Live)
・ベイカーへのインタビュー(聞き手:マージョリー・アンダーソン)(1969.10.22録音)

モンテヴェルディの、明朗で開放的な歌に心動かされる。一方で、グラツィアーニのくぐもった深沈たる悲しげな音楽の表情にベイカーの表現力の高さを想う。
そして、パーセル作曲「おお、私をどこかしずかな木陰へ連れて行っておくれ」の慈愛に満ちる響きに感無量。ちなみに、「ああ、無情な、残酷な運命よ」では最後に聴衆の笑いが起こっていて、おそらくベイカーの何らかの仕草に反応してのことだろうが、何だったのか気になるところ。

後半は伴奏をピアノに変えてのシューベルトとフォーレ。ベイカーの歌はもちろんのこと何よりレッパードのピアノ伴奏の巧さに舌を巻く。何という感情移入!シューベルトが泣き、咆える。そして、フォーレが飛翔する。「ひそやかに」作品58-2の内省的な静けさこそ作曲者の真髄。「夕暮れ」作品83-2の美しさ!
アンコールの2曲も素晴らしい。

 

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