アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル2015

alice_sara_ott_20150519208舞台袖から姿を現すや、いつもとは違う会場からの拍手の大きさに驚いた。会場をほぼいっぱいにする聴衆は、それほどに大きな期待を寄せて東京オペラシティ・コンサートホールに集まったということなのか(そういう僕も大いなる期待の下参戦したのだけれど)、あるいは根っからの追っかけたちがまさに煽動するかの如く、一般の聴衆にもその想いが連鎖し盛大なる拍手と化したのか、そこはわからない。それでも1曲ごとに血沸き、肉躍る聴衆を相手に、ほとんど聖公女の如く振舞い、一心にピアノに向かうアリス=紗良・オットの類稀なる才能に歓喜した。

何より彼女の紡ぎ出す音楽の自然体の美しさ。裸足で歩き、裸足のまま楽器を弾く、青いドレスを纏った聖なるピアニストの、移ろいの揺らぎ、そして音の強弱の自然さと、どこをどう切り取っても完璧な音楽が堪能できたひとときだった。何という浪漫、何というパッション!!

アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル2015
2015年5月19日(火)19時開演
東京オペラシティ・コンサートホール
アリス=紗良・オット(ピアノ)
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番ニ短調作品31-2「テンペスト」
・J.S.バッハ:幻想曲とフーガイ短調BWV944
・J.S.バッハ:シャコンヌ(ブゾーニ編曲)
休憩
・リスト:愛の夢第2番ホ長調/第3番変イ長調
・リスト:パガニーニ大練習曲S.141/R.3b
―第1番ト短調「トレモロ」
―第2番変ホ長調「オクターヴ」
―第6番イ短調「主題と変奏」
―第4番ホ長調「アルペッジョ」
―第5番ホ長調「狩り」
―第3番嬰ト短調「ラ・カンパネラ」
~アンコール
・ショパン:24の前奏曲作品28~第15番変ニ長調「雨だれ」
・グリーグ:抒情小曲集第10集作品71~第3番「小妖精」

「テンペスト」第1楽章ラルゴの冒頭から柔らかい音色に恍惚となった。実に清楚なベートーヴェン。理想的なテンポで囁くように進みゆく音楽に心奪われ、時に揺れる音楽にはっとする。間髪おかず第2楽章アダージョの浪漫。ベートーヴェンこそロマン派の嚆矢であることを証明する心情吐露。そして、終楽章アレグレットの勢いと豊かな音楽性に思わずため息が洩れた。主題をコロコロと転がす右手の自由さと、音楽を見事に支える左手の妙味。畏れ入った。僕はアリス=紗良の弾くベートーヴェンに「緑の光線」を見た。この人の魂にはひょっとすると木々の精霊が宿るのでは?それゆえ自然を感じさせるのだ。

バッハの「幻想曲とフーガ」は続く「シャコンヌ」の前奏曲の役割を担った。どうにも浪漫色豊かなバッハが煌めいた。さらに、フェルッチョ・ブゾーニ編曲による「シャコンヌ」の、鬼神が乗り移る堂々たる風格と崇高な音楽に最も感銘を受けた。冷徹なタッチと安寧に溢れるタッチの交差とでも表現しようか。中間部のニ長調に転じるパートの崇高さ、そして短調に戻った後の終結に向かって邁進、飛翔するバッハの精神を実に完璧に表現したピアニストの天才。ここまでで正直結構お腹いっぱい(笑)。

20分の休憩を挟み、フランツ・リスト。
正直、僕はリストの音楽を得意としない。抜群のヴィルトゥオジティとはいえ、どうにも浅薄に感じられる表層的な音楽に辟易するから。
しかしながら、その嗜好は見事に裏切られた。2つの「愛の夢」から終始抑制された音で、音楽は一旦ためて解放され、その上、粘る。こんなにも内容の濃い、深い情感に満ちたリストは初めて耳にしたかも。
6曲の「パガニーニ大練習曲」もすごかった。第2番変ホ長調の優しき歌。第5番嬰ト短調の可憐な右手の響き。そして何より壮絶なる「ラ・カンパネラ」に心満たされた。これほどに音楽的で、しかも技術的に完全な「ラ・カンパネラ」は聴いたことがなかった。悪魔的パガニーニとエゴイスト・リストの完全なる一体化!!全体的に女性的な印象を醸すリスト作品だったが、「ラ・カンパネラ」だけは男性的な側面が表面化。素晴らしかった。

観客の感動はおそらくここで沸点に達したと思うだが、残念な点がひとつ。僕の左斜め前方に座る男性の、興醒め超フライング拍手。彼は一体何がしたかったのだろう?何を訴えたかったのだろう?謎・・・。すべてがぶち壊しになるのに。
ちなみに、アンコールのショパンの「雨だれ」も最高。
続く、グリーグの「小妖精」の躍動感と歓喜!!

 

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