マキシム・ヴェンゲーロフ・フェスティバル2015(2015.6.1)

vengerov_20150601220渾身のジャン・シベリウス!
滅多に演奏されることのない作曲者が封印したヴァイオリン協奏曲のいわゆる初稿版。ここにはシベリウスの赤裸々な魂が刻まれた、ありのままの、赤子のような姿があった。生まれたままの形であるがゆえに確かに脆い。おそらくオーケストラも大変だっただろうと想像する。効き慣れないフレーズが頻出し、ほとんど初めて見る地図をたよりに、初めて訪れたような場所を、全体観を持ってソリストの要求に応えねばならないという責務に・・・。

自己批判精神は、成長のためにとても重要。それゆえ推敲の上作曲者が新たに問うた版というのはアントン・ブルックナーの場合然り、完全。
この際正直に書く。作品としては間違いなく通常聴かれる「現行版」を推す。しかしながら、シベリウスに直感的に降りた最初の版の、過去の様々な巨匠の影響を受けたであろう音楽の素晴らしさに、一切の虚飾を排した作曲者の哀しみあり、苦しみあり、そう、「真実」を想うのである。

何よりヴェンゲーロフの繊細かつ安定したヴァイオリンの美しさ。微かな細い超高音に刺激され、そして太い中音に癒され、さらに圧倒的低音の響きに涙した。特に、現行版ではカットされている第1楽章第2カデンツァの、バッハともパガニーニとも、あるいはベートーヴェンとも知れぬ独奏に、ヴェンゲーロフの「優しさ」を痛感した。あえて作曲者が表にしなかった音楽がこれほど丁寧に奏でられるのだから、シベリウスは草葉の陰で悔し泣きしているのでは?(笑)批評家がどれほど苦言を呈しようとこれはこれで良かったのである。
第2楽章アダージョ・ディ・モルトの透明感!その上、終楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポのフィン族を鼓舞するような勇気の舞踏!一瞬たりとも手綱を緩めずシベリウスに対峙するマキシム・ヴェンゲーロフの天才に酔いしれた。
それにしても指揮者新田ユリの力量にも脱帽。アイノラ交響楽団を聴くようになってからこの人には注目していたが、シベリウスの音楽を熟知する彼女ならではのシベリウスらしい正統な熱いアプローチに心動かされた。

マキシム・ヴェンゲーロフ・フェスティバル2015
2015年6月1日(月)18:45開演
サントリーホール
・シベリウス:ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47(オリジナル1903/4年版)
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
新田ユリ指揮東京フィルハーモニー交響楽団
休憩
・ベルリオーズ:幻想交響曲作品14
マキシム・ヴェンゲーロフ指揮東京フィルハーモニー交響楽団

休憩後の、ヴェンゲーロフが棒を受け持った「幻想交響曲」のこれまた素晴らしさ。音楽の流れを重要視し、同時にヴァイオリニストだけあり特に弦楽器の「歌」を引き出そうとうねる音楽作りに、前回の「シェヘラザード」以上に僕は感銘を受けた。
音楽は尻上がりに好調を示し、第4楽章「断頭台への行進」から終楽章「魔女の夜宴の夢」にかけての終わりのないカタルシスに唸った。例えば、「怒りの日」の主題の堂々たるテンポの妙!終結に向け、テンポを速め、かつクレッシェンドしてゆくときの得も言われぬ高揚!!

それにしても1830年にこの作品が初演されているという奇蹟。何という革新!何という前衛!!果たして当時の大衆がこの音楽を本当に受け容れることができたのかどうなのかは疑問だが、これほどに美しく、しかもシーンを具体的に想像させる「標題作品」はほとんどないのでは?エクトール・ベルリオーズの天才をあらためて思った次第。

 

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4 COMMENTS

kumagai

岡本さん くまがいです。昨日はありがとうございました。シベリウスは初めて聞きましたが曲は冗長で正規版とは
比較にならない、まとまりのない部分が多い感じでしたが しかしベンゲローフのバイオリンは素晴らしかったですね。後半の幻想もよかったです。私も 4.5楽章はあのようなたたみかける早いテンポが大好きで、堪能しました。
またいずれゆっくりとお話できたらありがたいです。まずは御礼まで。

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岡本 浩和

>kumagai様
こちらこそありがとうございました。
シベリウスも改訂癖がありましたから、ブルックナー同様新しい作品を聴くような価値がありますよね。
貴重な体験でした。
またぜひゆっくりと!

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