ラフマニノフの「舟歌」

rachmaninov_suite_argerich.jpg早秋の涼しさ。曇り空と小雨がちらつく街中を、傘を差しながら独り歩いていると、季節はずれの名詩が頭を過ぎる。

「舟歌」
おお、涼しいゆうべの波が、
ゴンドラのオールを静かに打つ。
-あの歌がまた! またギターで鳴る!
-遠くでいまは、憂鬱そしてまた幸せに、
聞こえるのは古い舟歌の響きか、
「ゴンドラは水面を滑り、時も愛とともに飛び去る、水はふたたび穏やかになり、情熱はもはや高まらない」
~ミハイル・レールモントフ

またしばらくすると真夏に戻ったかような猛暑日を迎えるのだろうが、今日のような一日は過ごしやすく、ものを考えるのにとても適した気候である。
人は独りではない。誰のそばにも支えてくれる誰かの存在があり、安心して生きていける。人が本音を語ってくれるとき、あなた自身が心を開き、受け容れる準備が意識せずできているときである。そして、突然思い出したかのようにある人に会いたくなるとき、素直に行動し直接に出逢って言葉を交わすことが良い。

ラフマニノフ:2台のピアノのための組曲第1番ト短調作品5「幻想的絵画」
マルタ・アルゲリッチ、アレクサンドル・ラビノヴィチ(ピアノ)

2台のピアノのための組曲は第2番のほうが有名だが、僕の好みは第1番。絵画的、文学的かつ極めて哲学的なこの音楽は、作曲者20歳のとき、すなわち1893年に生み出され、尊敬するチャイコフスキーに献呈されている(初演の数週間前に実際の音を聴くことなくチャイコフスキーは急逝しているのだが、青年ラフマニノフはまるでその死を予期していたかのように暗い影に包まれながらも透明な音色を湛えた音楽を書き上げている)。4つの楽章全てにインスパイアされた詩が添えられており、若干20歳の若者が書いた音楽とは到底思えない深みを持つ。
ところで、最近ラビノヴィチの消息を聞かなくなった(ひょっとすると僕が知らないだけかもしれないが・・・)。一時期、アルゲリッチとデュオを頻繁に組んでいた頃は毎年のようにCDをリリースし、素晴らしい演奏を聴かせてくれていたのに。アルゲリッチと同等、あるいはそれ以上にアグレッシブなピアノを聴かせてくれていただけに早々の復活が待たれる。

ちなみに、僕が初めて愛知とし子の実演を聴いたのは、ちょうど2年前の秋、日比谷の松尾ホールにおける*AK* the piano duoのリサイタルのとき。ロシアン・ロマンスと題するコンサートのメイン・プログラムがこのラフマニノフの組曲第1番であった。ともかく、このアルゲリッチ&ラビノヴィチに優るとも劣らない(マジです!)名演奏だったことを付け加えておく。

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