ハーガー指揮ザルツブルク・モーツァルテウム管のモーツァルト「ルーチョ・シッラ」を聴いて思ふ

mozart_lucio_silla_hager259少年モーツァルトの夢想はどこまでも飛翔する。
「ルーチョ・シッラ」。何と16歳の時に書き上げた、3時間半に及ぶ長大なオペラである。紀元前ローマの史実をもとにした台本の稚拙さが指摘されるが、アリアと重唱、そして合唱を伴ったその音楽は、天才アマデウスの筆らしく、あまりにも美しく可憐な旋律に溢れ、この時期からすでにこの人は「完成していた」ことがわかる。

女声に比較して男声が極端に少ないのが特長で、終始女声の独唱やアンサンブルが活躍する傑作。この際、物語は無視して、虚心に音楽に耳を傾けよう。
イタリア風シンフォニアの態である序曲の、いかにもモーツァルトらしい愉悦に心動く。中間のアンダンテの、やはり神童らしい爽やかな優しさにまた心揺れ、最後のモルト・アレグロの勇ましさに興奮。

オペラは、初日(12月26日)にはたいへん不愉快なことがいろいろ起こったにもかかわらず、成功しました。第一の事態は、ドイツ時間で8時頃になってようやく始まり、真夜中の2時までかかってやっと終わったのです。
ところが劇場は、5時半にはもうすっかり満員で、誰ももう入れなかったのを想像してください。歌手たちはみんなこれほど大勢の観客の前に出るのは初めてなので、初日の晩にはとても不安がっていました。歌手たちは不安な気持で、オーケストラと観客全員は苛立ちながら、熱気の中で、多くの人は立ったまま、3時間もオペラが始まるのを待ったのです。
(1773年1月2日付、レオポルトからマリア・アンナ宛)
高橋英郎著「モーツァルトの手紙」(小学館)P119

ミラノのフェルディナンド大公の遅刻により開演が大幅に遅れたという有名なエピソードが父レオポルトによって報告されるが、不満以上に息子の成功の喜びの大きさが伝わってくる。

今夜は7日目ですが、まったく満員で、なかなか入れません。たいてい(ジューニアを演じる)デ・アミーチスのアリアはアンコールされています。
~同上書P120

まずは第1幕第2番、ユリア・ヴァラディの歌うチェチーリオの長いアリア「喜びのこの時は、強いわが愛の報い」の巧さに惹かれる。同じく第3番、ヘレン・ドナートによるチェーリアのアリア「やさしく務めた希望が愛を育てることができなければ」における管弦楽伴奏の透明感が素晴らしい。ここはレオポルト・ハーガー指揮モーツァルテウムの真骨頂!
ちなみに、果たしてどのアリアがアンコールされたのかどうなのかは不明だが、第1幕第4番アリア「暗い陰の岸から、あなたの娘の最後の息をひきとりに来て下さい」などは、アーリーン・オジェーの生き生きとした素晴らしい歌声によって初演当時の感動が蘇る如く。
また、ペーター・シュライアーによるシッラの第5番アリア「復讐の考えが私の心に火をつける」の明快かつ堂々たる歌唱と、モーツァルトのどこか不気味さを醸す音楽の美しさ。

・モーツァルト:歌劇「ルーチョ・シッラ」K.135
ペーター・シュライアー(ルーチョ・シッラ、テノール)
アーリーン・オジェー(ジューニア、ソプラノ)
ユリア・ヴァラディ(チェチーリオ、ソプラノ)
エディット・マティス(ルチオ・チンナ、ソプラノ)
ヘレン・ドナート(チェーリア、ソプラノ)
ヴェルナー・クレン(アウフィーディオ、テノール)
ザルツブルク放送合唱団
レオポルド・ハーガー(指揮&チェンバロ)
ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団&合唱団(1975.1録音)

第2幕第8番アウフィーディオのアリア「剣のきらめきに青ざめる戦士なら、戦に出ないがよい」など、どこか「魔笛」の夜の女王のアリアを髣髴とさせ、ハ長調の開放性と相まって僕たちの感性を刺激する。ここでのヴェルナー・クレンの、優しくありながら実に勇敢なテノール!臆病は戦士には相応しくないのだと。
さらには、第3幕第20番チンナのアリア「傲慢な心をこらしめるジュピターの落とした雷は」におけるエディット・マティスの歌唱の爽快さと確信に満ちた響き!ほぼ同時期に書かれたであろうモテット「イクスルラーテ・ユビラーテ」K.165(158a)が木魂する。

録音から40年が経過するが、当時の第一線で活躍する歌手陣を配しての名演奏は今後も不滅だろう。モーツァルトはいつの時代もモーツァルト。やっぱり美しい。

 

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