リヒテル マゼール指揮パリ管 ブラームス 協奏曲第2番(1969.10録音)

で、ブラームスの協奏曲だ。あれには「プログラム」がこめられている。デルフォイにあるアポロンの宮殿に初めて訪れたとき、やっと解明できた。これはアポロンの生涯についての協奏曲だ。だからこれほど雄大で、厳かなんだよ、この協奏曲は。このことに気づいてからは、この曲の弾き方が変わった。
ホルンの奏でる冒頭の主題、そして最初のカデンツァは、誕生だ。アポロンがゆりかごから飛び出す。もう大人になっている。すぐに大人になってしまうところがいい。育児や教育に時間を費やさずにすむからね。

ユーリー・ボリソフ/宮澤淳一訳「リヒテルは語る」(ちくま学芸文庫)P80

リヒテルは夢想家だ。

明らかに何かが違う。
煌めく音、流れる力強いフレーズ。音楽に革新がある。
冒頭、しみじみと歌われるホルンの朗々たる調べから恍惚。何という素晴らしさ。まったく盲点だった。

スヴャトスラフ・リヒテルは、人の名前に関してはすぐに覚えられ、決して忘れることがないのに、数字はからっきし駄目だったという。グレン・グールドが唯一認めた同業者だけある、まったく天才肌の創造者だった。

グールドは、リヒテルのことをコミュニケーターだと言った。
一見気難しく、自己の内部に沈潜するタイプのように思われるが、なるほど、少なくとも音楽を提供する立場という点では、聴衆のことを一番に考え、そのために最善を尽すことができた音楽家だったのだと思う。

ヨハネス・ブラームスのピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83。
パリ管弦楽団を指揮する若きロリン・マゼールの伴奏も実に雄渾であり、またチャレンジング。幾度繰り返し聴いても常に発見のある名盤だ。

・ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品83
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
ロリン・マゼール指揮パリ管弦楽団(1969.10.24-28録音)

遅めのテンポで奏される第2楽章アレグロ・アパッショナートの意味深さ。そして、第3楽章アンダンテは、何と柔らかく、愛らしい音楽なのだろう。その上、リヒテルのピアノは極めて神秘的に響く。終楽章アレグレット・グラツィオーソの軽快で可憐な歌。リヒテルはこの楽章をアポロンの「愛の遍歴」だとする。それゆえにか、彼の弾く音楽は実に愛らしい。

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