ハワード・シェリーのアンリ・エルツ協奏曲第1番, 第7番&第8番を聴いて思ふ

herz_concertos_shelly344知らないからといって安易に避けることなかれ。
世界は自分の知らないもので成り立っており、そのひとつひとつに挑戦し、切り崩していくことがそもそも人生なのだ。すべての体験は素晴らしい贈物である。

古今東西作曲家というのは「自称」も含めて五万と存在するわけで、僕たちが日常クラシック音楽の大家として認知し、聴いている音楽作品というのはほんの一握りの氷山の一角にしか過ぎないものであることを痛感する。

1828年発表のピアノ協奏曲第1番イ長調作品34。何とも浪漫に溢れ、旋律は甘く美しく、ピアノと管弦楽が見事に融け合う様にショパンの知られざる作品なのかと聴き紛うた。おそらく(というか完璧に)ショパンの方が影響を受けているようだ。
フランスのピアニストであり作曲家でもあるアンリ・エルツ。
当時この人が一世を風靡したことは音楽を聴けば如実にわかる。
とはいえ、老年期(1864年)の作品、ピアノ協奏曲第7番ロ短調作品207となると、様相が異なってくる。甘さよりも厳しさが前面に押し出され、音楽はより緊密に保たれ、今度は彼がショパンの影響を受けるのだ。特に、第2楽章ロマンスの愛らしさ、そして哀愁。
さらに1873年のピアノ協奏曲第8番変イ長調作品218の、70歳の老人の筆とは思えぬ可憐さ、そして歌。ここでも第2楽章アンダンティーノの静かな美しさが際立つ。

エルツ:
・ピアノ協奏曲第1番イ長調作品34
・ピアノ協奏曲第7番ロ短調作品207
・ピアノ協奏曲第8番変イ長調作品218
ハワード・シェリー(ピアノ)
ハワード・シェリー指揮タスマニア交響楽団(2003.9.9-12録音)

世界初録音であるこのエルツ集によって、僕たちはようやくアンリ・エルツの音楽を享受できるようになった。ハワード・シェリーの弾き振りが見事。何より造形的バランス感覚の素晴らしさとその技術の妙。さすがにラフマニノフ弾きとして鳴らしただけある。

「音楽」
しばしばよ、音楽の、海のごと、わが心捉うるよ!
      青ざめし、わが宿命の、星めざし、
靄けむる空の下、無辺なる宇宙へと、
      われ船出する。

帆の如く、胸を張り、
      呼吸かろく、
寄せかえす、波の背を、われ渡る、
      夜のとばり、とざす奥。

難破の船の一切の苦悩を、
      われの感ずるよ、胸の奥所に。
また順風の、あらしのい波の、

      わだつみの奈落の上に、
われを揺る。―またある時は、油風、見る限り一面の
      わが絶望の、真澄かがみ!
堀口大學訳「ボードレール詩集」(新潮文庫)P82-83

堀口大学氏の、まるで音楽のようにそよぎ美しく流れる邦訳に胸を打たれる。19世紀フランスの高尚な浪漫。

 

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