掘り出し物

入学から1年経って学生生活にも程良く慣れ、しかも就職活動まではまだまだ時間があるという余裕からか大学2年生というのはちょうど「だれる時期」。そういえば僕自身もそうだった。将来の不安とか過去の後悔とか、そんなことに一切目もくれず、とにかく「今」を謳歌していた時期。懐かしい。

世相が変われどその点は変わらず。3年生ともなれば世の中の状況を敏感に捉え、人より早く「就職」を意識して動こうとするだろうが、いかんせん2年生に将来のことを意識させることは相当難しいみたい。

某大学の2年生向けの就職フォロー講座を受け持ったが、何と参加者ゼロ。必須の授業じゃないことと前述のような意識の低さが原因だと推測するが、まぁ予想通りといえば予想通り(本当は1ヶ月でも1日でも早く就活の準備を始めるのがいいのだが、自分のことを振り返ってみるとまったく偉そうには言えない)。急遽教室を間違えて入ってきた3年生を相手に、授業のコンテンツを変更し、ほとんどパーソナル・セッションに近い形で講座を進めさせていただいた。完璧にアドリブだったので参加学生が満足してくれたかどうかは何ともいえないが、少なくとも危機感を煽り、一日でも早く行動することの重要性を植えつけることはできたと思う。がんばってもらいたい。

青木やよひ著「ベートーヴェンの生涯」を往復車中で斜め読みした。楽聖の生涯の重要ポイントが簡潔明瞭に書かれておりなかなか良書だと思う。

ボンからウィーンに出てきてまもなくベートーヴェンはハイドンに弟子入りする。実際には目前に迫ったロンドン行きの仕事に忙殺されてほとんどまともに指導はできなかったらしいのだが、さすがはハイドンのこと、ベートーヴェンの才能にいち早く気づき、次のような賞賛の声を挙げているようだ。
「やがてベートーヴェンがヨーロッパ最大の音楽家となることは、専門家も好楽家もひとしく認めざるを得ず、しかも私は、自分が彼の師と呼ばれることを光栄に思うことでしょう」

素晴らしい。そのハイドンがロンドンから帰国し、仕上げた傑作オラトリオを。若きベートーヴェンはどんな思いで師のこの傑作を聴いたのだろう・・・。

ハイドン:オラトリオ「天地創造」Hob.XXI-2
ミア・ペーション(ソプラノ)
トピ・レティプー(テノール)
ディヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(バリトン)
アイヴォー・ボルトン指揮ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団

※だいぶ前、タワーレコードで690円で仕入れた掘り出し物。これがまた見通しの良い演奏で、この長大なオラトリオがとても心地良く享受できる。「天地創造」のここのところの愛聴盤。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
ハイドン:オラトリオ「天地創造」については、まだ聴き込みが足らず、ご紹介のCDも未聴で、旧約聖書への理解も深くはありませんので、もう少し勉強してから再コメントしてみたいです。

そもそも、アダムとイヴなど、旧約聖書『創世記』における「天地創造」の時代設定はいつなのでしょうか? 知らなかったので調べてみました。

(ウィキペディア「天地創造 年代推定の歴史」の項より)
・・・・・・旧約聖書学では、創世記の記述内容としての「天地創造が起こった年代」は果たしていつだったのかについての推定が繰り返されてきた。

ただし前提として、批評的な旧約聖書学では、天地創造物語は信仰書であり、信じている内容を記述しているという事は、批評的な全ての学者が認めており、もはや「実際に・事実として、いつ起こったことか、どうか」は、研究・議論されていない。ただし、「当時の人々がいつ起こったと考えていたのか?それはどういう信仰・根拠だったのか?」などは研究されている。

正教会では西暦で言うところの紀元前5508年のことだとしており、これを元年とした「世界創造紀元」を用いていた。

1654年に、英国国教会のアイルランド大主教ジェームズ・アッシャーとケンブリッジ大学副総長ジョン・ライトフットが聖書の記述から逆算し、天地創造は西暦の紀元前4004年10月18日~24日にかけて起こり、アダム創造は紀元前4004年10月23日午前9時と算出し、長らくキリスト教圏ではこの年代が信じられてきた。その他にも天地創造の年代には諸説ある。

『タルムード』 前3760 – 2年
フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ古代誌』 前5444年
ユリウス・アフリカヌス『年代誌』 前5500年
エウセビオス『年代記』 前5199年
アウグスティヌス『神の国』 前5351年
ベーダ『時間計算論』 前3952年
オットー・フォン・フライジング『年代記』 前5500年?
スレイダヌス『四世界帝国論』 前3954年
スカリゲル『時間修正論』 前3948年
ペタヴィウス『年代表』 前3984年
ボシュエ『世界史論』 前4004年
ペズロン『古代復元』 前5873年
ガッテラー『普遍史序説』 前3984年、『世界史』 前4182年
・・・・・・

先日来の岡本さんの話題にもあるように、バロック~ワーグナーやブルックナーなど、クラシックの諸作品を「深い呼吸」の名演で聴くと、「悠久の時間の流れ」を意識しないわけにはいきません。

※ところで、昨日某所で、取引先の社長のご厚意により、フィンランドのオルキルオトに建設中の、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場についてのドキュメンタリー映画『100000年後の安全』(2009年/79分/デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア 監督:マイケル・マドセン)
を一度でいいから観てみたいという、予てからの念願が叶いました。
http://www.uplink.co.jp/100000/

内容はすでに知識として知っている事実についてがほとんどでしたが、今という時期だからこそ、ひとりでも多くの方に観ていただき、「悠久の時間の流れ」について真剣に考えていただきたいと強く思いました。
映画批評家 前田有一さんによる、優れて説得力のある「超映画批評」を紹介させてください。
http://movie.maeda-y.com/movie/01562.htm

・・・・・・映画の中で、フィンランドはこの地下500メートルの施設(建設中)の中に、放射性廃棄物を10万年保管する計画だと明かされる。

キリストが生まれてから数えてもたったの2000年。世界最古の木造建築・法隆寺が建てられてからは1400年。10万年ももつ建築物など、そもそもありえるのか……?

耳を疑うような、途方もない計画だがそれが現実。原発を運転していれば必ず発生する高レベル放射性廃棄物は、放射能が強すぎて、そのくらいの時間は隔離しておかないと危なくて生物は近づけない。万が一それらを地上でぶっちゃけてしまったら、福島やチェルノブイリの爆発事故が、ぽぽぽぽーんのCMくらいかわいく見える被害が出る。日本では、青森県六ケ所村の再処理工場がこのリスクをはらんでいる。ちなみにこの、我が国の原子力技術の粋を集めた再処理工場は、震度3で外部電源喪失(4月7日 23時32分)という、プルト君もびっくりの耐震実績を誇る。

さて、映画はオンカロ最終処理施設の成り立ちや事情を説明しつつ、やがて意外な展開になる。

「そもそも10万年て、そんな未来に人類はいるのか」「いまと同じ文明は続いてないかも?」「もし違う文明人がこれ見つけたら、貴重な遺跡か何かと間違って掘り出しちゃうんじゃね」「じゃ、看板に「掘るなキケン」て書いておこう」「いや10万年も持つメディアないだろ」「じゃ石碑にしよう」「つか同じ文字読めるとは限らないんじゃ?」「じゃ絵にしよう」──と、ほとんどブラックジョークのような哲学的やり取りに発展してゆく。

結局、10万年間、危険物を保管管理するというのは、もはや科学ではなく、哲学の領域ということがこれを見るとわかる。

ネアンデルタール人(10万年前)と意思疎通ができるのか、と問いかけるその発想には、思わずはっとさせられる。ネアンデルタールさんが、むちゃくちゃ危険なものを私たちに説明しようとして、私たちがそれを理解できるかといえば、とても無理だろう。だいたい、キケンといわれれれば見てみたくなるのが人間だ。どうせ古代人の危険物なんて、呪いのかかった玉とかそんなんだろうよと嘲笑しつつ……。

映画は、10万年後までこのフィルムが残るはずがないことを自覚しつつ、10万年後にこの施設を発見した未来人に語りかけるように展開する。その最後のナレーションは、しかし3.11後の日本人がみたら、衝撃を受けるような内容が含まれている。 ・・・・・・

未来の世界や日本を支えるであろう某大学の2年生にも、ぜひ観ていただきたい映画です(微笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
ドキュメンタリー映画のご紹介、ありがとうございます。
衝撃をうけるような最後のナレーション、気になりますねぇ。
これは何とか観てみたいです。

しかし、10万年というのは途方も無い年数ですね。
とはいえ、あくまで小さな人間からの観点の話なので、宇宙的規模からみるとあっという間なのでしょうが。
それくらい人類は自然や大宇宙を相手に「何とか支配できないものか」と挑んできたのだと思います。

旧約聖書についてはまだまだ僕も知識不足です。というよりキリスト教圏内で過ごし、そういう信仰心を持たない限りはなかなか真髄までは理解しがたいものじゃないかとも思うのです。ただ、宗教でもたかだか5000年余りの歴史なんですよね・・・。やっぱり10万年は想像不可能です。

本日もありがとうございます。

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