アルゲリッチのショパン、ブラームス、プロコフィエフ、ラヴェル、リスト(1960.7録音)を聴いて思ふ

argerich_debut_recital399マルタ・アルゲリッチはドイツ・グラモフォン社からの最初のレコーディング・オファーを一旦断っている。まだ準備ができていないこと、自身の技術がより成熟するのを待ちたいという理由で。

1960年7月某日、マルタは数時間で初めての商業レコーディングをおこなった。収録曲はラヴェル「水の戯れ」、プロコフィエフ「トッカータ」、ショパンのスケルツォ第3番嬰ハ短調と「舟歌」、リストの「ハンガリー狂詩曲第6番」、そして彼女のレパートリーとしては特異なブラームス「2つのラプソディ」作品79だった。ドイツ・グラモフォンのオファーから3年が経っていた。彼女は最終的に専属契約書に(目も通さず)サインした。そこには好きな曲を好きなときに録音できるという条件が明記されていた。
オリヴィエ・ベラミー著/藤本優子訳「マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法」(音楽之友社)P106

実際、この最初の録音は55年を経た今も色褪せず、新鮮かつ実に壮絶だ。当時の人々が感嘆の声をあげたプロコフィエフやラヴェルはもちろんだが、彼女のレパートリーからはずされることになったブラームスの劇性と意味深さに僕は感動する。
ここにあるのは自由な飛翔。ともかく思いつくまま、感じるままにピアノと戯れているような印象。決して型にはまることなく、とはいえ極端なデフォルメや独自の解釈を施すでもなく、斬新で生き生きとした音楽を奏でるマルタ。言葉では表現し難い官能。

マルティンはジャズに強い興味を持っており、マルタ・アルゲリッチが何者かも知らなかった。・・・(中略)・・・マルティン・ティエンポはあっという間にアルゲリッチ家に受けいれられた。・・・(中略)・・・わずかな時間で、マルティン・ティエンポはマルタへの恋に落ちた。「当然の成り行きだ。彼女は綺麗で、初々しく、恐ろしく才能があった。だが、相思相愛になるのは難しかった。マルタは特定の相手に縛られる関係を嫌っていたからね」
~同上書P111-112

このマルティン・ティエンポの言葉が(人間関係、恋愛に限らず)マルタ・アルゲリッチのすべてを表すよう。その音楽と同様、これほど魅力的な女性はいまい。

・ショパン:スケルツォ第3番嬰ハ短調作品39(1960.7録音)
・ブラームス:2つのラプソディ作品79(1960.7録音)
・プロコフィエフ:トッカータ作品11(1960.7録音)
・ラヴェル:水の戯れ(1960.7録音)
・ショパン:舟歌嬰ヘ長調作品60(1960.7録音)
・リスト:ハンガリー狂詩曲第6番(1960.7録音)
・リスト:ピアノ・ソナタロ短調(1971.6録音)
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)

特筆すべきはショパンの「舟歌」。何と瑞々しく、何と色香豊かな「水」の音楽であることか!理想的な揺れるテンポで、ショパンの心情が見事なテクニックで音化される様に、作曲者自身が演奏しているのではないのかと錯覚を起こすくらい。
さらに、ラヴェルの「水の戯れ」。完璧な演奏、完全な表現(何と素敵なトリルとグリッサンド!)。アルゲリッチの演奏はアンリ・ド・レニエのいう「水にくすぐられて笑う河の神」そのものだ。
マルタのピアノの魔法に魂洗われ、心豊かになる。

 

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