チベットのブルックナー

bruckner_8_inbal.jpg上野の森美術館で開催されている「聖地チベット~ポタラ宮と天空の至宝」展に行く。最終日でしかも3連休の最後の日ということもあるだろうが、とにかく人、人、人。混んでいるせいもあるが、序章「吐蕃王国のチベット統一」から第4章「チベットの暮らし」まで展示された美術品をひとつひとつ丁寧にながめていくだけで正味2時間近くかかった。チベット仏教、密教なるものを研究していくと相当に面白そうだ。

チベットのラマ僧の儀式だといわれる「チベット体操」を毎朝欠かさず励行してかれこれ6年が経過するが、チベットについてはほとんど知識がない。妻も同じくチベット体操を欠かさずやっているが、どうやら僕以上にチベットに興味を持っているようだ(おそらく前世か過去世かどこかのタイミングで一緒に修行をしていたのだろうが)。今年はチベット自治区まで何とか旅をしてみたいという。チベットを旅したことのある友人はこぞって絶対に行ったほうが良いと薦めるくらいだから余程良いところなのだろう。何とか時間を作って足を踏み入れてみたいものだ。

第2章「チベット密教の清華」のあたりで、突如ブルックナーが鳴り響いた。なぜかはわからない。第8交響曲フィナーレのコーダ。そして、アダージョ楽章のコーダ。いずれも野人ブルックナーが書いた傑作の結尾である。もちろんブルックナーがチベットと関係あるはずはない。それでもあの高貴な音楽が無意識に相応しいと思ったのかどうか。

美術館を後にし、上野界隈を少々散策、老舗の「蓮玉庵」で蕎麦でも啜ろうと思って立ち寄ったが、生憎臨時休業。仕方ないのでそのまま帰路に着く。山手線で新大久保に向かい、そこからまた15分ほど歩く。それにしても今日は寒い(近所の八百屋のおばちゃんまでもが「今日は寒いですね」って声をかけるくらいだからよっぽどなのだ)。

そういえば、だいぶ昔中沢新一氏の「チベットのモーツァルト」を買ったが、ほとんど読みかけのままどこに置いたのだろうか。もはや所在が不明なので、これを機に再度買いなおしてじっくり読んでみようか・・・。

ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(1887年初稿)
エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団

25年前、この音盤が初めてリリースされたとき、音楽を聴いて誰もが驚いた。細部に亘って我々が知っているブルックナーの第8と違うのである。聴きなれないそのバージョンに僕は正直最初戸惑った。ブルックナーの頭に最初に鳴ったであろう音楽とはいえ、決定稿を繰り返し聴き、この音楽の虜になった僕にしてみれば違和感の連続だった。まだまだ音楽鑑賞歴の浅い時期だったからしょうがないのかもしれない。今なら逆に作曲家の脳みそを分解、探求するような作業で非常に興味深いし、ましてやこのインバル盤などは初稿での演奏だということを抜きにしても後世に残るであろう名演奏ゆえ、当時くらいの時間と余裕があればどっぷりと浸るのだが・・・。フィナーレのコーダも悪く言えば整理されていない。しかし、その荒々しさ、若々しさが逆に魅力でもある。最近では女流のシモーネ・ヤングが初稿での演奏をリリースし評判になっているが、僕は未だ聴いていない。そろそろちゃんと聴かないとブルックナーについて語れなくなるのだろうか。

※このインバル盤の国内盤の価格は当時4,882円。今やたったの1,050円!


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
第2章「チベット密教の清華」のあたりで、突如ブルックナーが鳴り響いた。
どのルートから登頂しても、宗教の頂(いただき)からは似たような絶景を拝めるのでしょうね。
ブルックナーの交響曲3・4・8番の初稿は、後の改訂稿より原始の荒々しい響きを想わせ私も好きです。野生の狼と飼い慣らされた猟犬くらいの差でしょうか(好きだなー、この譬え・・・笑)。利口な女狼・シモーネ・ヤング指揮盤は現在のところ初稿の最高峰の演奏だと思います。SACDハイブリット盤ですし、ぜひ聴いてみてください。
ちなみにシモーネ・ヤングやゲルギエフの魅力的な新譜SACD盤、岡本さんみたいなコアなクラシック音盤マニアが支持してバンバン購入しなくてどうしますか!! こういう優れたソフトを情報通の音盤マニアでさえ購入に躊躇している、ここにも日本の内需がちっとも上向かない諸悪の根源を見る思いです(笑)。日本の若者の未来のために、古いCDを売ってでも、もっと散財しなきゃ!(笑)
ブルックナーといえば、レコ芸新年号の宇野さんの交響曲新譜月評にはあいた口が塞がりませんでした。ヴァントとミュンヘン・フィルによる、輸入盤ではとうの昔に出ている一連のCD、今更のように褒めちぎっていますが、今まで知らなかったのでしょうか? 「新版 クラシックCDの名盤 演奏家篇」  宇野功芳・中野雄 ・福島章恭 (共著) (文春新書 2009/11/20 第1刷発行)
http://classic.opus-3.net/blog/cat29/post-308/#comments
のヴァントの項でも宇野さんは何も言及していません、知らなかったのでしょう。ブルックナー評論家の第一人者として怠慢の謗りは免れません。月評から即刻引退し、後進に道を譲るべき時期でしょう。
なお、これらの超名演盤を国内盤でSACDにして販売しPRする気持ちなど更々ない発売会社にも、向上心や良心のカケラもないと言いたいです。これでは国内クラシックの音盤業界の景気もお先真っ暗です。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>こういう優れたソフトを情報通の音盤マニアでさえ購入に躊躇している、ここにも日本の内需がちっとも上向かない諸悪の根源を見る思いです(笑)。日本の若者の未来のために、古いCDを売ってでも、もっと散財しなきゃ!(笑)
ご指摘ありがとうございます。反省しきりです(苦笑)。しかし、先日のコメントでは「引き算の美学」について言及されてました。増やさない、ということも同時に考えねばですね。
http://classic.opus-3.net/blog/cat57/post-313/#comments
>レコ芸新年号の宇野さんの交響曲新譜月評にはあいた口が塞がりませんでした。
同感です。何を今更という感じですね。バルシャイのショスタコ全集の時もそうでしたが、日常的にCDなどの情報は得ておられないんでしょうね。
>これらの超名演盤を国内盤でSACDにして販売しPRする気持ちなど更々ない発売会社にも、向上心や良心のカケラもないと言いたいです。
これについても同感です。

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