マルケヴィチ指揮ラムルー管のリリ・ブーランジェ「深き淵より」ほか(1959録音)を聴いて思ふ

lili_boulanger_markevitch460何より鮮烈。
金管の咆哮、その男性的荒々しさは、懸命に生きようとする意志の顕れのよう。
弦楽器のうねり、その女性的色香は、彼女が作品に託した死への憧憬のよう。
信仰の裏側に、愛と死の同化を垣間見る夭折の天才リリ・ブーランジェ。
幼時より病弱であったがゆえの、そして常に死と隣り合わせであったがゆえの「覚悟」がいずれの作品からも感じとれる。

幼少の体験の刷り込みは真に大きい。良くも悪くも人間はそこからは逃れられないのだ。

1900年、父エルネストが病の前触れもなく、突然世を去った。そして、この一番近しい肉親の死に寄せて書いた歌が、リリの作曲事始めとなる。2年前には生まれて間もない妹ジュリエット・マリーを、さらに6年後に大好きな母方の叔母を喪った。次々に身内の死を経験した少女は、早くもカトリック信仰のうちに、これら失われた魂との合一を期待したのであろう、残されたおよそ50曲には宗教作品が多い。
小林緑編著「女性作曲家列伝」(平凡社選書)P264

僕は思う。
リリは宗教にすがったのではないと。言葉は形にすぎず、そこには真理はないゆえ。
むしろ、人一倍感受性が強かった彼女は自らのうちに早くも神を発見し、内なる愛と出逢うがために時間とともに消えゆく音楽をただひたすら書きつけていたのではなかったのかと。

リリ・ブーランジェ:
・深き淵より(詩篇130)
・詩篇24
・詩篇120
・古い仏教徒の祈り
・ピエ・イエス
オラリア・ドミンゲス(コントラルト)
レイモン・アマデ(テノール)
ミシェル・セネシャル(テノール)
ピエール・モレー(バリトン)
アラン・フォキュール(ボーイ・ソプラノ)
エリザベート・ブラッスール合唱団
イーゴリ・マルケヴィチ指揮ラムルー管弦楽団(1959録音)

1917年、発熱の苦しみと闘いながら、そして死の恐怖と向き合いながら、リリが完成させた「深き淵より」と「古い仏教徒の祈り」の力強さと安寧。
イーゴリ・マルケヴィチのリリに対する大いなる尊敬と熱烈な愛情が見事に刻印される。

深き淵より
主よ、あなたを呼びます。
この声を聞き取ってください。
嘆き祈るわたしの声に
耳を傾けてください。
主よ、あなたが罪をすべて心に留められるなら
主よ、誰が耐ええましょう。
(詩篇130)

慟哭のコントラルト。オラリア・ドミンゲスの歌は哀しく激しい。一方の、レイモン・アマデのテノールはそれを支える希望の声だ。
ここにあるのは諦念よりも希望だろう。何より生に固執する前向きな思考だ。少なくともマルケヴィチはそんな意味合いを込めて音楽を作る。

生あるすべてが、敵も邪魔するものもなく、
苦しみを乗り越え、幸せになり、
運命づけられた道のなかで、
自由に動けますように。
(古い仏教徒の祈り)

また、合唱の祈りの後に奏でられる、ハープを伴奏にしてのフルート独奏の幽玄。あるいは、ミシェル・セネシャルの優しい歌にすべてが融け合うような感覚を招く。

慈悲深き主イエスよ
彼らに安息を与えたまえ
永遠の安息を与えたまえ
アーメン
(ピエ・イエス)

何より、辞世の歌「ピエ・イエス」のこの世のものとは思えぬ透明感。老練という表現が正しいのかどうなのか、それはアラン・フォキュールの天使のような歌声のせいもあるのだろう、それこそ肉体を超え、魂が直接に音楽を書きつけるかのような純粋さをもつ。あまりに静かで美しい。

 

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3 COMMENTS

雅之

ご紹介のSACD、3年ぐらい前までなら速攻ゲットしようとしたと思います(笑)。

彼女の曲を聴くと、残念で無性に寂しくなります。あれほどの才能があったのに、あんなにも早くに神様のもとに召されたなんて、どう考えても不条理です。

そこで、救いを求めたくなるのが、中島みゆき の名曲です。ここは不本意ながら岡本様の死生観に思いっきり寄り添ってみましょう(笑)。

今はこんなに悲しくて
涙もかれ果てて
もう二度と笑顔には
なれそうもないけど

(中略)

まわるまわるよ
時代はまわる
別れと出会いをくり返し
今日は倒れた旅人たちも
生まれ変わって
歩き出すよ

今日は倒れた旅人たちも
生まれ変わって
歩き出すよ

中島みゆき:「時代」より

http://www.amazon.co.jp/%E6%99%82%E4%BB%A3-Time-goes-around–%E7%B4%99%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E4%BB%95%E6%A7%98-%E4%B8%AD%E5%B3%B6%E3%81%BF%E3%82%86%E3%81%8D/dp/B001FOSLI8/ref=sr_1_14?s=music&ie=UTF8&qid=1456825948&sr=1-14&keywords=%E4%B8%AD%E5%B3%B6%E3%81%BF%E3%82%86%E3%81%8D%E3%80%80%E3%80%8E%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%80%8F%EF%BC%88

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雅之

コメントしてから気付きましたが、なんだかシンクロしてそうですよ。

>1900年、父エルネストが病の前触れもなく、突然世を去った。そして、この一番近しい肉親の死に寄せて書いた歌が、リリの作曲事始めとなる。

「時代」に秘められた過酷な誕生秘話についての記事

http://infochampon.com/archives/1095

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岡本 浩和

>雅之様

>あれほどの才能があったのに、あんなにも早くに神様のもとに召されたなんて、どう考えても不条理です。

まったく同感です。

>ここは不本意ながら岡本様の死生観に思いっきり寄り添ってみましょう

いやいや、それこそ雅之さんの本意じゃないんですか?!(笑)
「時代」は薬師丸ひろ子バージョンで愛聴しましたが、中島みゆきは本当に素晴らしいですね。
とはいえ、その誕生秘話は初めて知りました。
なるほど、名曲の裏には才能だけでは作り得ない「縁」があるのですね。
まさに「因果」です。

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