鼓動

prokofiev_argerich_detoit.jpg人の胸に耳をあて、静かに耳を澄ますと、「トントントン」という心臓の音が聴こえる。他人の「鼓動」を聴いたことがあるだろうか?誰一人として同じ響きをもっていない。十人十色、それぞれがそれぞれのリズムで「生きて」いる。心臓が動いていることも肺が動いていることも、胃腸が動くことも、人間の意思とは別の意識に依っている。そんなことは普段考えもしない。気にもしない。とはいえ、間違いなく「何か」の意思によって人は皆生かされている。だから、自分自身が「何のために」生まれてきたのかを知ることはとても大事なこと。

青山の「草月ホール」で開催された川田公子太鼓の世界39回「鼓鏡」を観に行った。いわゆる沖縄太鼓の一種である「みやらび太鼓」によるパフォーマンス。何世紀も何千年も前の地球上で意味深く奏されたであろう打楽器の音は、人間の知覚を刺激し、遠い世界に誘ってくれる。正味1時間少しの公演だったのだが、珍しくもうつらうつらし、半分くらいは「夢の世界」に入ってしまっていた(要は心地よく眠ってしまったということ)。単調で一定のリズム。それでいてはらわたに響く音。

旧ブログで採り上げたバルトークの「2台の打楽器とピアノのためのソナタ」、「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽」などは、20世紀ハンガリーが生んだ天才が生み出した一大傑作であり、いつ何時聴いても感動させられる「凄み」をもつ。ともかく身に染みる。そして身体中に響く。「叩く」という行為がいかにひとの「生命」に深い影響を与えるかがこういう音楽を聴くとよくわかる。

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番ハ長調作品26
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団

1998年の第1回「別府アルゲリッチ音楽祭」で聴き、身も心も持っていかれたしまったのがまさにこのプロコフィエフ屈指の名曲。誰のどんな演奏でも、実演で聴くと必ず興奮させられる人間の「鼓動」とリンクしているであろう一体化、すなわち「お祭り」の音楽。時に原始的であり、時にモダンであり、30歳の青年セルゲイ・プロコフィエフは何を想ってこの音楽を創出したのだろうか・・・。

喧嘩別れした「元夫婦」が確か久しぶりに協演した録音。年齢を重ねることで人は人を許すことができるようになるのだろう。まるで恋人のように二人は寄り添い、刺激的かつ最高の名演奏を聴かせてくれる

「世界の万民が結局いつの日か、彼らの精神的指導者たちがとっくの昔に把握していた真理を認識するであろう。それはほかでもない、人類のまず第一の美徳は、己の不完全性を認め至高の存在者の掟に従うことにあるという真理である。」(ジョン・ラスキン)


4 COMMENTS

ぷみ

新ブログの一発目から素晴らしい曲ですね!しかも伝説の名盤!
僕もプロコのピアコン3番は大大大好きです。この曲は僕はアルゲリッチの為に書かれたと言っても過言じゃないほどアルゲリッチの演奏スタイルにあてはまってる曲だと思います。ただ鍵盤を叩く様な(メシアンのトゥーランガリラでも良く見られる)演奏ではなくしっかりと芯があり、その上音色が非常に透き通っており、下品な印象を決して与えない。アルゲリッチは歴代ピアニストの中でも僕にとってはやはり特別なピアニストです。とうとう来年の4月にデュトワとの共演でプロコ3番を聴いて来ます!初アルゲリッチです。以前ラヴェルのピアコンをキャンセルされた苦い思い出が。。。
日本には来年の9月ですね。既に5ヶ月経ちまして。。。長いようで短いとは正にこの事だなと痛感しております。来年の9月もいつの間にか目の前まで来るんだろうなと思います。
人見記念でのブル7!!!あのヨッフムが座って指揮してるDVDですよね!?2楽章の頂点の所で座ってたヨッフムが立ち上がるところは鳥肌が立ったものです。本当に素晴らしい演奏です。ブル7はやはり前半2楽章に尽きると思います。
あっ、後バルトークの事について触れられておりましたので少しだけ。弦チェレがお好きな用でしたら(僕も大好きですが)ヤナーチェクのグレゴル・ミサを是非。この曲は僕の中ではヤナーチェク最高傑作です。イギリス人指揮者が(特にマッケラス)好んでよく演奏しています。既に御存知でしたらすみません。

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おかちゃん

>ぷみ君
おはよう。
コメントありがとう。何とアルゲリッチ&デュトワの実演とは!!それは羨ましいです。ぜひ感想を聞かせてください。
そっか9月か。まぁ、あっという間だよね。一回り成長したぷみ君に会えるのを楽しみにしてます。
僕のブルックナーの入口は第7交響曲なんだよね。そう、前半2楽章で当時イカれちゃいました。
ヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」!渋いねぇ。さすがぷみ君!
僕は、マッケラス盤のほかデュトワ盤でもたまに楽しんでます。
ちなみに、昔クラシカ・ジャパンで放映されたマッケラスの録画映像も持ってるよ。

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雅之

こんばんは。
世界的な名ピアニストでもあったプロコフィエフは、「ピアノは打楽器だ。打楽器のように弾くべきである。」と語っていたそうですね。彼の若いころの写真を見ると、ちょっとプーチンに似た風貌で、いかにも自信に満ちた力強い打弦の演奏だったんだろうなあと、感じます。
ルビンシュタイン音楽コンクールのピアノ部門で、バックハウスに敗れて2位になったバルトークのピアノ曲も、打楽器的ですね。
プロコフィエフ、バルトーク、ラフマニノフの作曲家自身のピアノ演奏、ショスタコのように録音が残っていたら、さぞかし面白い発見が出来たでしょうね(ピアノ・ロールの記録、残っていたんでしたっけ?)。
アルゲリッチのプロコフィエフ、おかちゃんやぷみさんのおっしゃるとおり、最高!

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
ラフマニノフもバルトークも録音は残ってますね・・・。ピアノロールはどうでしたっけ?ひょっとするとプロコもあったかと思います。
ちなみに、バルトークのピアノ演奏を集めたプライベート・コレクションCD4枚組(Hungaroton)を持ってますが、貧しい音ながらなかなかの演奏です(自作だけでなくバッハやモーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、リスト等が収録されています)。

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