サンソン・フランソワのショパン「24の前奏曲」(1959録音)ほかを聴いて思ふ

ジェリー・マリガンを賛美する人は、皆一様に「プレリュードホ短調」を聴けという。
この曲は、1970年代、FM東京の「アスペクト・イン・ジャズ」という番組のテーマとして使われていたそうだが、当時ジャズの「ジ」の字も知らなかった僕が、FM放送は愛聴し、日々エア・チェックに勤しんでいたとしても、その番組を聴いているはずはなかった。
ただし、40年も前のあの頃、僕はショパンの音楽は心底好きで、おそらくほぼ毎日何らかの音源でショパンを聴いていたのではなかったか。遅ればせながら、ジェリー・マリガン・セクステットの「プレリュード」を聴いて、原曲に忠実にアレンジを加えながら、まるでオリジナルの別の曲のように聴かせる、ジャジーな音楽に感慨一入。

ジェリー・マリガンの代表作であるアルバム”Night Lights”を聴いて、全編まるで夜想曲のような静かな音調に痺れた。これは単なるメロウな、癒しの作品集ではない。マリガンの深みのあるバリトン・サックスを軸にアート・ファーマーがうねり、ジム・ホールが歓喜する。このセクステットの華麗なテクニックと完璧なアンサンブルの妙味。美しい。

・Gerry Mulligan:Night Lights (1963)

Personnel
Gerry Mulligan (baritone saxophone, piano)
Art Farmer (trumpet, flugelhorn)
Bob Brookmeyer (trombone)
Jim Hall (guitar)
Bill Crow (bass)
Dave Baily (drums)

ショパンの前奏曲(プレリュード)ホ短調は、パリのマドレーヌ寺院で挙行されたショパンの葬式(1849年10月30日)でオルガンによって奏された短くも哀感満ちる作品。マリガンはもちろんそのことを知っていたのだろうか、ほとんど鎮魂曲のような音調で聴く者の肺腑を抉る。

ジェリー・マリガンのプレリュードに惚れたなら、原曲はサンソン・フランソワで聴いてみよ。音楽は優しく切なく、とことん悲しい。

・ショパン:24の前奏曲作品28
サンソン・フランソワ(ピアノ)(1959.2.6, 10, 11&5.4, 12録音)

フランソワの第15番変ニ長調「雨だれ」は、ことによると他の誰の演奏よりもマジョルカ島に滞在中のショパンの、安堵と快癒の心情を表現し切っているのかもしれない。この音楽の内側に秘められた安心感は並みのものでない。

トルコ玉のような空、ルリのような海、エメラルドのような山、天国のような空気。終日太陽は輝き、みんな夏のよそおいで歩いている。暑いのです。夜はギターや歌ごえが何時間もつづいている。蔓におおわれた巨大なバルコニー、ムーア風の城壁。万事が、街ぐるみアフリカ風です。一口でいえば、奇怪な人生。なおわれを愛せよ。プレイエルに言って下さい。ピアノがまだ着いていないのです。どこ経由で出したのですか。「プレリュード集」はほどなく着くでしょう。世界中で最も伝説的な遺跡に立っている不思議なお寺に住むことになっています。
(1838年11月15日付、パルマのショパンよりパリのフォンターナ宛)
アーサー・ヘドレイ著/小松雄一郎訳「ショパンの手紙」(白水社)P230

そしてまた、第17番変イ長調の、高鳴る胸に去来する希望の如しの主題の快感。
サンソン・フランソワのショパンは唯一無二。他の誰がこんな風に愛らしく、そして自由に表現できただろう?
フランソワもマリガンも、表現の術は異なれど、ショパンの真髄を見事に音化する天才だ。

 

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