ティルブリーのケージ「ソナタとインターリュード」(1974.12録音)を聴いて思ふ

cage_sonata_interlude_tilbury547信仰ある(超越している?)鐘の音に聞こえる。
いや、これはジョン・ケージのいう「自分自身が意図せずに出している2つの音、すなわち神経系統の作用と血液の循環」なのかも。
一定のリズムを保持し、淡々と紡がれる音。説明不能の、いかにも東洋的なセンスに満ちる音楽。1946年から48年にかけて作曲された「プリペアード・ピアノのためのソナタとインターリュード」。こんなものを発明するとは・・・。
禅に影響を受けたジョン・ケージの、鈴木大拙師にまつわる印象が面白い。

数年前、私が鈴木貞太郎大拙博士の講演に出席していたときのことである。博士は、話をするときに、静かに話される。そのときには、昨晩友人に話をしていたときのように、飛行機がときどき頭上を通りすぎて行った。講演が行われたのはコロンビア大学で、キャンパスはラ・ガーディア空港から西へ向けて発つ飛行機の進路の真下にあった。天気がよいときには、窓は開け放たれた。上空を飛ぶ飛行機が、鈴木貞太郎大拙博士の話をかき消した。それでも、博士は声を大きくしたり、止めたり、聴衆に聞こえなかったところを教えようとはしなかった。また飛行機が通過したときに、博士が何を言ったのか、聞こうとする者もなかった。ところで、博士はある日、漢字―それは「幽」という漢字であったと思う―の意味を、説明していたが、博士はその時間全部を費やしてそれを説明し、その語を英語で表しうるもっとも近い意味は、「説明不能」であると言った。最後に博士は笑い、それからこう言った。「日本からはるばるやってきて、説明できないことを説明するために時間を費やすなんて、おかしいじゃありませんか」。
ジョン・ケージ/柿沼敏江訳「サイレンス」(水声社)P65-66

なるほど、真理とは説明できないもの。

僕たち人間は矛盾の中にある。
しかしその矛盾は、二元という枠を超えたときにはなくなるものなのかもしれない。
なぜならそれは思考や感情というものによって創出されるものであろうゆえ。

そのものを、そのものと見ることのできる人は、すでにそのものから超越した人である。何か苦しいことがある。あるいは暑い、寒いというときに、苦しみを苦しみと観じ、寒暑を寒暑と観じた人は、それを超越することができた人なのである。そういう風に気のつくということは、動物にはできないが、しかし人間には可能である。そこが人間の妙である。そこに意識というものが生じて来た訳である。動物には、自分というものを自分で批判する力がない。人間になると鏡というものを自分に写して、そして自分を批判して「これはいかにも下らぬ顔をしているなあ」と、自分で自分を考える力がある。これが人間の特色であって、同時にその特色によって、人間は万物の霊長となる。けれど、この特色がまたすこぶる厄介なものでもある。すなわち、この因果、十二因縁というものを観ずることのできるのが人間であるが、しかも、そういうことを批評的に見ることができると同時に、またそれに捉われて、それ以外に出ることができなくなる。これが人間の弱点である。
鈴木大拙「禅とは何か」(角川ソフィア文庫)P90-91

ありのままをありのままに見よ、と鈴木大拙師は諭す。
同じく、ケージが体験した鈴木大拙。

あるアメリカ人の女性が、「鈴木博士、どうなんでしょう。私たちは一晩かけて博士に質問をいたしましたが、何も明らかにはなりませんでした」。
鈴木博士は微笑んで、こう言った。「だから私は哲学が好きなんだよ。誰かが勝つということはないのだから」。
ジョン・ケージ/柿沼敏江訳「サイレンス」(水声社)P79

裏返すと、本来すべては初めから明らかだということだ。
矛盾の中にある僕たちにその認識がないということに過ぎない。

・ケージ:プリペアード・ピアノのためのソナタとインターリュード
ジョン・ティルブリー(プリペアード・ピアノ)(1974.12.9-11録音)

東西の合一の中にあるアンビエント・ミュージック。
戦後すぐという時代に生み出された奇蹟。
考えず、感じず、ただ浸るのが良し。

ところで、音楽を享受するという意味で、後悔すること多々。
そのひとつ、ジョン・ケージのこと。彼の音楽をもっと早くから興味を持って体験すべきだったということ。

無為を為し、無事を事とし、無味を味わう。
小を大とし小を多とし、怨みに報ゆるに徳を以てす。
(老子道徳経下篇63)
金谷治「老子―無知無欲のすすめ」(講談社学術文庫)P193-194

 

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