コワン&アントニーニのヴィヴァルディ チェロ協奏曲集第1巻(2006録音)を聴いて思ふ

vivaldi_cello_1_coin梅雨が明けると一気に夏が訪れる。
射て差す太陽に、グスタフ・フォン・アッシェンバッハが避寒に訪れたヴェネツィアの白い砂浜の熱い光線を思った。
1678年、この都市に生を得たアントニオ・ヴィヴァルディの奇蹟。
彼の作品の素晴らしさは、一聴彼のものだとわかる旋律にある。音楽は時に軽々と、そして時に哀感込めて、聴く者の魂に寄り添うように流れ、流れる。嗚呼、それは月影を反映する水の如し。

太陽はわれわれの分別と記憶とを麻痺させ魅了するから、魂は快感のあまり自己本来の状態を全く忘却し、驚きつつ感嘆しつつ、陽光を浴びた事物の中の最も美しいものに縛りつけられたままでいるものだといわれているではないか。まことに愛の神は、愚かな子供たちに純粋形式のわかりやすい姿を教えてやる数学者に劣らぬのである。
トーマス・マン作/高橋義孝訳「トニオ・クレーゲル・ヴェニスに死す」(新潮文庫)P195

真夏のヴィヴァルディ。
恋い焦がれる、清涼な音響に風光明媚なイタリアの風景を夢見る。
残念ながら僕は、たった一度しかイタリアの地を訪れたことがない。かつて欧州の北の国の芸術家たちを魅了したアルプスの南の温暖な国はインスピレーションの宝庫であった。
何と美しい!!

ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲集第1巻
・チェロ、弦と通奏低音のための協奏曲イ短調RV419
・チェロ、弦と通奏低音のための協奏曲ヘ長調RV410
・チェロ、ファゴット、弦と通奏低音のための協奏曲ホ短調RV409
・ピッコロ・チェロ、弦と通奏低音のための協奏曲ト長調RV414
・チェロ、弦と通奏低音のための協奏曲ニ短調RV406
・チェロ、弦と通奏低音のための協奏曲ハ長調RV398
・チェロ、弦と通奏低音のための協奏曲イ短調RV421
クリストフ・コワン(チェロ)
ジョヴァンニ・アントニーニ指揮イル・ジャルディーノ・アルモニコ(2006.2&8録音)

慈愛と滋味に満ちるチェロ協奏曲。
クリストフ・コワンのチェロの爽やかな音色。この透明感こそヴィヴァルディの真骨頂であり、僧侶であった作曲家の聖なる思考の賜物。
具現化こそ生命。

ただこのヴェニスという土地にかぎって、彼を魅了し、彼の意欲を弛緩させ、彼を幸福にした。午前中などにはよく自分の小屋の前に張った日覆いの下で南の国の海の碧さを夢見心地で眺めたり、あるいはまた生温かい夜などをサン・マルコの広場で時間潰しをしたりしたあと、またそこから大きな星のまたたく夜空の下を、リドまで乗って行くゴンドラのクッションに身をもたせかけながら、賑やかな灯やセレナーデの甘たるい響きをうしろに残して水の上を滑って行ったりするとき、山地にある別荘のことがふと彼の念頭をかすめ過ぎることがあった。
~同上書P190

ヴェネツィアに客死したリヒャルト・ワーグナーをも思う。
アントニオ・ヴィヴァルディは今から275年前のちょうど今頃(7月28日)、その生涯を終えた。
眩しい太陽に感謝を送る。

 

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5 COMMENTS

雅之

・・・・・・1901年2月から3月にかけて、アクセル・カルペラン男爵の尽力でシベリウスは家族を連れてイタリアへ長期滞在の旅に出た。ジェノヴァ郊外のリゾート、ラパッロに住まいと作業小屋を借りシベリウスはこの作品の作曲を進めた。厳寒のフィンランドに比べ温暖なこの国を彼は「魔法がかかった国」と評し、スケッチの筆は急速に進んだ。また、この国の様々な伝説や芸術作品も彼の創造力を刺激した。第2楽章の楽想はフィレンツェでの印象やドン・ジョヴァンニ伝説にインスピレーションを得たと言われる。また、ローマ滞在中にパレストリーナの音楽に多く触れ、その対位法技法から多くを学んだ。しかし、シベリウスはこの作品をイタリア滞在中に完成させることはできず、フィンランドに戻ってからも筆を入れており、1901年11月にカルペラン男爵宛に完成が近いと知らせている。この時点で一旦完成とした後、年末に再び大幅な改訂を行った。・・・・・・Wikipedia 「シベリウス:交響曲第2番」より

ここで恥ずかしながら、私の今年になってからのクラシック系の数少ないお買い物情報(今では音楽系については、趣味に費やす年間総額の20分の1にも満たないです)。

① リントゥ&フィンランドRSOと、ラトル&BPOのシベリウス交響曲全集BDを迷った末結局購入し堪能。後期作品での上質感も甲乙付け難いですが、リントゥのは特に絶品。両方一生の宝物になり得ると確信しました。ただし、『タピオラ』が入っていないのがリントゥ、ラトル両全集ともに不満。

②タルコフスキー監督の交響曲第0番とも言えそうな「ローラーとバイオリン」 BD 。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3-Blu-ray-%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%A0%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B3/dp/B01FFVSKZU/ref=sr_1_1?s=dvd&ie=UTF8&qid=1469910510&sr=1-1&keywords=%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3

これでタルコフスキー全作品をBDで所有が実現。

振り返ってみれば、寒冷地出身、シベリウス、タルコフスキー両者ともに、やっぱりイタリアに良いご縁がありましたね(笑)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様

結局ラトルのシベリウスも購入されたのですね!
「一生の宝物になり得る」ということでしたら良かったです。

あと、タルコフスキーの全作品をBDで所有ですか!
僕は今のところかつてのDVDしか持っておりませんが、日進月歩の技術を鑑みると、また何年かすると新しいフォーマットが出て、結局BDも古くなるような気がして、ま、このままでいいかなどと過ります。
それでもどれくらい美しくなったか確かめたくなりますが・・・(笑)

>寒冷地出身、シベリウス、タルコフスキー両者ともに、やっぱりイタリアに良いご縁がありましたね

特に寒い土地に住む人はやっぱり南国に憧れ、その南国にインスパイアされるということですね。
人間にはやっぱり刺激が必要です。

返信する
雅之

余談です。

>結局BDも古くなるような気がして、ま、このままでいいかなどと過ります。

そのことについては、まったくおっしゃるとおりです。詰まるところ、もはやCD、SACD、DVD、BDの時代ではないので、所有する残りのソフトを明日全部売り払っても痛くも痒くもないと思うようになれました。そもそもソフトを再生するためのハードを作る現在の家電・オーディオメーカーを、一切信用していませんし・・・。

そして、芸術は何百回何千回見聴き読んでもその作品を知ったことにはならないし、1回も見聴き読まなくても「知らない」ということではありません。それに気づいた時、一切のソフト蒐集への執着もなくなりました。ただ、音盤やDVD、BDは、浅い興味本位で時たま購入するだけなのです。

ちなみに、「読んでいない本について堂々と語る方法」ピエール・バイヤール (著) 大浦 康介 (翻訳)   筑摩書房

https://www.amazon.co.jp/%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84%E6%9C%AC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E5%A0%82%E3%80%85%E3%81%A8%E8%AA%9E%E3%82%8B%E6%96%B9%E6%B3%95-%E3%83%94%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%83%AB/dp/4480837167/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1469936697&sr=1-1&keywords=%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%AA%E3%81%84%E6%9C%AC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E5%A0%82%E3%80%85%E3%81%A8%E8%AA%9E%E3%82%8B%E6%96%B9%E6%B3%95

に書かれていることは、知識人を含めた世界のすべての人に当てはまります。無論、全然悪いことではありません。

>人間にはやっぱり刺激が必要です。

同感です。刺激は、本物の実体験に勝るものはありませんよね。

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岡本 浩和

>雅之様

もはや悟りの境地ですね。

>芸術は何百回何千回見聴き読んでもその作品を知ったことにはならないし、1回も見聴き読まなくても「知らない」ということではありません。

おっしゃるとおりです。
ご紹介の本、以前もお薦めいただき読みました。

http://classic.opus-3.net/blog/?p=2141#comments

再読試みます。
ありがとうございます。

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雅之

>もはや悟りの境地ですね。

おかげさまで気分は「さとり世代」かも。じつに新鮮です(笑)。

ありがとうございます。

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