武満徹の「ジェモー(双子座)」 タン・ドゥン~Takemitsuへのオマージュ〈武満徹没後20年〉

tan_dun_takemitsu_20160826627心温まる、愛ある儀式。すべての音がシーンを想起する。
武満徹がちょうど30年前に描いた愛の情景が見事に再現された。
東洋の、あるいは日出国の深遠なる世界の表出。会場が指揮者の、独奏者の、オーケストラの、そして聴衆の全細胞から放出されるエネルギーに包み込まれた。

「ジェモー(双子座)」の第3楽章「トレース」において、2つのオーケストラと2つの独奏楽器が見事に交差し、いよいよ「陰陽合一」の光景が映し出された。感動した。
ところで、オーボエは、夜であり、女であるのか?
また、トロンボーンは、昼であり、男であるのか?
終楽章「アンティストロフェ」でのオーボエの、「トリスタン」第3幕の牧人の笛の如くの哀しげな旋律に僕は戦慄した。同じくトロンボーンが奏するミュートのかかった虚ろな旋律が2つのオーケストラと共働、咆哮し、最後はひとつに収斂される様に驚いた。
そして、武満自身の次の言葉に触発され、僕の空想は大いに広がった。

これは音楽による恋愛劇であり、ふたつのもの、時に相反するものが、愛によって帰一する態を描いている。

僕の武満の印象は静謐さと浮遊感だが、この作品は作曲者自身が「恋愛劇」というだけあり、実に劇的で時に重く、時に愛らしく、そして色香放つもの。本当に素晴らしかった。何より三ツ橋敬子とタン・ドゥンの阿吽の呼吸!!

サントリーホール30周年記念 国際作曲委嘱作品再演シリーズ
武満徹の「ジェモー(双子座)」
タン・ドゥン~Takemitsuへのオマージュ〈武満徹没後20年〉
2016年8月26日(金)19時開演
サントリーホール
荒川文吉(オーボエ)
ヨルゲン・ファン・ライエン(トロンボーン)
スティーブン・ブライアント(バス)
神田勇哉(フルート)
タン・ドゥン(指揮)
三ツ橋敬子(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団
・武満徹:ジェモー(双子座)~オーボエ独奏、トロンボーン独奏、2つのオーケストラ、2人の指揮者のための(1971-86)
休憩
・タン・ドゥン:オーケストラル・シアターⅡ:Re~2人の指揮者と分割されたオーケストラ、バス、聴衆のための(1992)
・武満徹:ウォーター・ドリーミング~フルートとオーケストラのための(1987)
・タン・ドゥン:3つの音符の交響詩(2010)

後半のタン・ドゥンの作品たちの、老荘思想に影響を受けたであろう瞑想。
”Re”において三ツ橋が幾度か発した”Silent!”という声、それはまさに無や静寂の偉大さの合図。阿鼻叫喚する音楽は静けさをもってますます光り輝くオーラを放った。
管弦楽が細かく分割されている分、音楽は空間的拡がりに長けていた。それに、演奏に僕たち聴衆が参加するのである(曲の前半の「レ音」のハミング、そして、半ばの「ホン・ミ・ラ・ガ・イ・ゴ」というマントラの発声)。
ちなみに、作曲者曰く、タイトルのReには音階の「レ」と、また英語のReが意味する「再」の二重の意味を込めているということ。「再」とはすなわち「輪廻転生」なり。

また、様々なジャンルの音楽イディオムを駆使した「ラシド」がモチーフの「3つの音符の交響詩」の威容。とにかく数時間を経た今も頭の中で「ラシド」がぐるぐると駆け巡っているのだからその効果たるや・・・。何というタン・ドゥンのサブリミナル効果!!

「ウォーター・ドリーミング」はいかにも武満らしい作品で、文字通り夢見心地の浮遊感。それにしても荒川文吉さんのフルート、良かった。

この音楽も抒情的でまた夢幻的な挿話が円環を成すように連らなり、完結することはない。(武満徹)

液体、固体、気体と変化する、流れる水の如くの輪廻転生。
タン・ドゥン氏もおっしゃっていたが、会場の真中で武満さんが観ていらっしゃるような素敵な儀式だった。

 

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2 COMMENTS

畑山千恵子

私も行ってきました。タン・ドゥンの音楽は東洋の視点を打ち出し、大変ユニークな視点に立っていました。武満徹も傑作だと感じています。

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