マルク・ミンコフスキ指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

コンサートが音と空間のドラマであることを痛感した2時間。
時間の経過につれ聴衆が集中力を獲得し、それと同時に音楽が熟れ出す様を僕はまざまざと体感した。オール・メンデルスゾーン・プログラム。

冒頭のチューニングからこれまで見たことのない方法。管のチューニングの後、まずはコントラバスが音を合わせ、次にコンサートマスターが徐にセカンドのトップに近づき音合わせをし、そして各々が弦のプルト毎に順番に音を合わせていく。何という入念さ、丁寧さ。
そうして出てきた音は、確かに鮮烈な印象。音はずっと引き締まり、高速でありながら弾力のある音色。「フィンガルの洞窟」では、ややオーケストラのバランスが今一つとりにくかったのか、指揮者は幾度となく金管の音を抑制する仕草を見せていた。それでも後半の弱音での弦楽器と木管群のやりとりは、見事に自然の音を響かせており、さながら風景画のようだった。
続く「イタリア」交響曲は、第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェ冒頭から音が弾け、躍動し、愉悦に溢れる音楽が奏でられていた。ちなみに、ミンコフスキの解釈は、何より終盤に、つまり終楽章にクライマックスを持ってくるやり方のよう。疾風怒濤の終楽章サルタレッロ:プレストの強烈な集中力と、超高速でも乱れぬアンサンブルに僕は思わずため息が出た。

ただし、今日の聴衆の集中力、緊張感は確かに不足していた。特に前半、第2楽章アンダンテ・コン・モートが始まるや客席上方から何やら物が落ちるようなバタンという大きな音がしたことをはじめとし、会場の空気がどうにもふわふわしていた。落ち着きのない様子を察したからなのかどうなのか、休憩をはさんでの後半冒頭、ミンコフスキが指揮台に立つや客席を向き開口一番、「スコットランド」交響曲にまつわるエピソードを披露してくれた(これが彼のいつものやり方なのか僕は知らないI。とにかくこの作品はメンデルスゾーンの作品の中でも、否、世界中のあらゆる音楽作品の中でも最高傑作の一つであり、人類の至宝ともいうべき哲学的作品なんだと(だから耳をほじくって聴けよというメッセージが込められていたのか?)。彼は口角泡にして語った後、理屈を述べるのはこれくらいにしてとにかく聴いてくれと棒を降り下ろすや、出てきた音楽の何という凄まじさ!!指揮者のプレゼンテーションが効いたのか(あるいは僕の気のせいなのか)、会場のエネルギーが一変したことが何よりの驚き。

マルク・ミンコフスキ レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル
2018年2月27日(火)19時開演
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
マルク・ミンコフスキ指揮レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル
メンデルスゾーン:
・序曲「フィンガルの洞窟」作品26
・交響曲第4番イ長調作品90「イタリア」
休憩
・交響曲第3番イ短調作品56「スコットランド」

ピリオド奏法というのはどちらかというと音のメリハリがはっきりしていて、鋭いばかりで官能が弱い印象をこれまで僕は持っていたが、ミンコフスキは何より音のフレーズのつながりと移ろいを重視しているようで、とにかく全編自然な流れが本当に美しく、素晴らしかった。特に、「スコットランド」交響曲では、指揮者の指示にオーケストラが完璧に応えていた様子で、指揮者もご満悦の表情。どの楽章も素敵だったが、一番はアタッカで奏された怒涛の終楽章アレグロ・ヴィヴァーチッシモ―アレグロ・マエストーソ・アッサイ!!それも、絶妙なパウゼをおいて長調に転じるコーダの圧倒的爆発とエロスの発露に僕は涙が出るかと思うほど感動した。

久しぶりにメンデルスゾーンを聴いて思ったこと。
試行錯誤と幾度もの推敲を重ねて創造された音楽の美しさと、インスピレーション溢れる数多の旋律美に、やはり彼も天才などではなく、「やり抜く力」を秘めていた人であったということ。そして、ミンコフスキの革新的な解釈がそのことを一層明らかにしてくれたということ。

ちなみに、今日の作品のすべては、クリストファー・ホグウッド校訂によるベーレンライター新版によるものだそう。

 

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