傾聴、共感、そして受容

beethoven_incidental_abbado.jpg要らない書籍を処分しようと本棚を整理した。2年前引っ越す時に、漫画本などほとんど読まなくなったものをおそらく1000冊近くBook offに売ったが、査定が相当厳しく大した金額にならなかった。今回はAmazonなどを使ってみようかと思っているが、不要な書籍のほとんどは、おそらく一過性の、つまりその時代、その時期に流行った啓発本や社会・経済・政治絡みの評論書だったりするので、一方で欲しい人なんていないだろうとも考え、いっそのことゴミ箱行きにしてみてもいいのかなとも思っている。果たしてどうしたものか・・・。

「思い込み」というのは恐ろしいものである。社会に適応するのが苦手な人に限って「思い込み」が激しい(逆に、そうだから適応性が低いんだろうけど)。会話をしていても、実はあまり聴いていないことが多い。勝手な憶測でモノを言う。人に伝わる間に、推測が推測を呼び、勝手な尾ひれをつけ、とんでもない話になっていることもよくあることだ。勝手に想像しないこと。そして、他人の話はよく聴くこと。そう、まさに「傾聴」である。

「傾聴」も、「共感」や「受容」という言葉と同様、カウンセラー講座などでは頻繁に使われる重要な用語である。コミュニケーション上で「傾聴」、「共感」、そして「受容」は大切な要素であることは確か。しかし、これらは座学では決して学べない。あくまで体感を伴った知識として身につけない限り現場でものをいうことはない。人は誰でも、たとえそれがものの3分間といえども完全に他者に意識を向け続けることは難しい。ふと仕事や約束など、他のことをついつい考えてしまうのだ。そういう中で、本当に100%目の前の相手に意識を向けられた時、びっくりするほど大きなエネルギーの循環が生まれる。信頼関係が構築できるのはそういう瞬間である。

ベートーヴェン:付随音楽「献堂式」&「レオノーレ・プロハスカ」WoO96
シルヴィア・マクネアー(ソプラノ)
ブリン・ターフェル(バリトン)
ブルーノ・ガンツ(朗唱)
ベルリン放送合唱団
クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ほか

ベートーヴェンの珍しい曲を久しぶりに・・・。そういえば、今と違い、アバド時代のベルリン・フィルは、興味深いコンセプトのコンサートを開催したり、普段滅多に聴くことのできない珍曲を随分採り上げてくれた。もちろん、現地で実演を聴いたことがないし、当時何度か来日した折も、激しいチケット争奪戦に阻まれて結局彼らの演奏を聴くことができなかったので、確信をもってアバド&ベルリン・フィルの演奏を云々する資格は僕にはない。しかし、ただひとついえるのは、ベートーヴェンの音楽が、有名無名は置いておくとして、彼でなくては書けなかった尊い箇所を随所随所に秘めているという事実をアバドが見事に表現し、知らしめてくれたということ。
ちなみに、「献堂式」は、同じく劇付随音楽「アテネの廃墟」(1811年作)からの翻案ゆえ最晩年に書いたのはおそらく序曲だけかと思われるが、それにしてもこの序曲の持つ解放感はいかばかりのものか・・・(完全に耳が聴こえなくなった人間が生み出したとは思えない前向きさ!)。こういう音楽をやらせるとアバドは抜群に上手い。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。
今夜は岡本さんにおすすめしたい本があります。
『読んでいない本について堂々と語る方法』(ピエール・バイヤール 著, 大浦 康介 訳 筑摩書房)です。 題名とは裏腹に真面目な本です(笑)。
http://www.amazon.co.jp/%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84%E6%9C%AC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E5%A0%82%E3%80%85%E3%81%A8%E8%AA%9E%E3%82%8B%E6%96%B9%E6%B3%95-%E3%83%94%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%83%AB/dp/4480837167/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1234353470&sr=1-1
「本を読んだ」、「音楽を聴いた」とはどういうことか?「読んでいない」、「聴いていない」と「読んだけれど忘れてしまった」、「聴いたけれど忘れてしまった」はどこが異なるのか?
「傾聴」と「ざっと聴いた」との違いは?「あのCD聴いた?」という問いに対し、一度だけ聴いて正直に「ああ、聴いた、聴いた」としか言えない人と、聴いていないのに、そのCDについて愛情を持って滔々と語れる人と、どっちがそのCDの中身について「共感」、「受容」していることになるのか?そういうことを考えさせられる本です。
音楽ではなく本について語った書籍ですが、積読も未聴モランマのCDの山脈も、じつは深い意味と存在理由があるのだと自信が持てる本です(笑)。ぜひ、ご一読を!(あっ、私はちゃんと読んで語っていますので悪しからず)
アバドのベートーヴェンについての私の感想は、またの機会に!

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
ご推薦ありがとうございます。早速購入しました。
なかなか興味深い内容のようですね。楽しみです。
アバドのベートーヴェンについては実は僕はあまり詳しくありません。ぜひ雅之さんの感想を早めにお聞かせください(笑)。

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