クレンペラーのベートーヴェン第2交響曲(1957.10録音)を聴いて思ふ

beethoven_1_6_klemperer_po_1957その変人ぶりや常軌を逸する。何より彼は業が深かった。
しかし、数々の不幸に見舞われながらも都度復活し、長命を得たのは周囲の多くの人々の助けがあったからだということをあらためて知る。きっと過去世において随分徳を積んだことだったのだろう。
ちなみに、ウォルター・レッグとの出逢いがあり、その晩年、EMIの数多の録音が残せたことは、音楽家クレンペラーにとって人生最大の収穫だったのだと思う。良かった。

1939年9月18日、専門医ギルバート・ホラックスの手により、クレンペラーの頭からリンゴ大のいわゆる「聴神経腫」が除去された。手術は4時間半におよんだ。クレンペラーが目を覚ましてみると、右目の括約筋と舌の右側が麻痺していた。右腕もやっとのことでしか動かせない。数日後には髄膜炎にも襲われた。ゲオルクは、予断は許さないが危険なことにはならない、と見通しを語った。ヨハナは12月まで夫のベッドで辛抱強く看病をつづけた。ところがクレンペラーは起き上がれるようになると、彼女に別れたい、とにかく当分のあいだは別れたいと言いはじめた。ヨハナにはもうなにがなんだかわからなくなってしまった。
E・ヴァイスヴァイラー著/明石政紀訳「オットー・クレンペラー―あるユダヤ系ドイツ人の音楽家人生」(みすず書房)P199

病み上がりとはいえ、意味不明の自己中心。これでも妻ヨハナは離れなかったのだから、余程オットーに魅力があったのかどうなのか。
そして、1950年代に定職を失った彼に、誰も手を差し伸べない中(フルトヴェングラーも拒絶した)、レッグが名乗りを上げた。

この緊急時に、クレンペラーはコンサート・エージェントと会い、このエージェントがロンドンのフィルハーモニア管弦楽団を紹介してくれた。フィルハーモニア管弦楽団は、英国EMIのディレクター、ウォルター・レッグが設立した新しいオーケストラである。レッグは「音楽家ヘッドハンター」としての優れた手腕で知られ、フルトヴェングラーやカラヤンが戦後のキャリアを重ねていくのを手助けした人物だ。1959年、クレンペラーはフィルハーモニア管弦楽団の首席指揮者になった。これは救いだった。
~同上書P204

レッグのお陰で残されたEMIの録音はどれもが晩年のクレンペラーの至芸を刻印する。
ベートーヴェンの交響曲を聴いた。

ベートーヴェン:
・交響曲第2番ニ長調作品36(1957.10.4&5録音)
・交響曲第5番ハ短調作品67(1959.10.22-24録音)
オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団

堂々たるニ長調交響曲。とりわけ第2楽章ラルゲットの清廉な祈りと、終楽章アレグロ・モルトの遅めのテンポの豪快さ。この対比こそクレンペラーの二面性の権化。名演だ。また、ハ短調交響曲の威容に感動。

コンサートに行くのをひどく嫌がっていた父も、自分が認める指揮者はクレンペラーだけだと何度も言っていました。(・・・)父が、1940年にメキシコ・シティで聴いたコンサートの思い出を話してくれたことがあるんですが、そこにはひどいオーケストラしかなく、そこでクレンペラーがベートーヴェンの第5を指揮したというのです。父が言うには、それは自分が聴いた最高の第5だったそうです。
(1972年頃、ゲオルク・アイスラーの証言)
~同上書P230

このハ短調交響曲は、間違いなく10本の指に入るひとつだ。
なるほど、ニ長調&ハ短調、2つの交響曲緩徐楽章の連関を、クレンペラーのこの演奏で僕は知らしめられた。

 

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2 COMMENTS

雅之

クレンペラーは、ある日、次のような暴言を吐いたそうです。

Yeah, that’s her, with the gold. I’ve got to use some Tic Tacs, just in case I start kissing her. You know I’m automatically attracted to beautiful? I just start kissing them. It’s like a magnet. I just kiss. I don’t even wait. And when you’re a star, they let you do it. You can do anything.

それでも彼の人気は落ちなかったそうです。きっと過去世において随分徳を積んだからでしょうね(笑)。

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