クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルのブルックナー交響曲第3番(1960.2.14Live)を聴いて思ふ

bruckner_3_knappertsbusch_1960695ハンス・クナッパーツブッシュの実演を体験されている中野雄さんは、「地鳴りのような響きの記憶は鮮明に耳の奥に残っている」とおっしゃる。果たして実況録音であっても、その凄さは見事に伝わるものだ。
桁違いの巨大さとうねる音楽の精神性は、やはり指揮者の作曲家への深い愛情の証であろうと想像する。
ブルックナーの交響曲第3番ニ短調。有名なデッカのスタジオ録音以上に有機的かつ生々しい音響。実演ならでは、である。

よく知られているように、クナッパーツブッシュは多すぎる練習を嫌い、彼をなによりも尊敬する楽員の能力を信頼していました。そして彼はその魔術的な力で、演奏中に楽員から最高の能力と集中を直感的に引き出すことができたのです。一方、録音スタジオでの仕事は全く好みませんでした。窮屈なスタジオ技術に束縛されるよりは、生演奏の刹那の幸福な雰囲気をはるかに愛したのでした。
フランツ・ブラウン著/野口剛夫編訳「クナッパーツブッシュの想い出」(芸術現代社)P104

音楽こそ聴衆との対話であると、また、音楽とは空間と時間を介しての一期一会であると彼は考えていたのだろう。こんなに楽しい、それでいてスケールの大きい解釈はそうはない。ブルックナーへの愛情、そして、献呈されたワーグナーへの崇敬。

精々、「ニ短調交響曲」という表題をペン書きのアラベスクで飾る程度に止め、私の名前は何も飾りをつけないで下さい。これはとても大切なことです。但し、ワーグナーへの献辞には一切装飾を加えない方がよいとお考えになるならば、私としては全く何の異存もありません。しかし、「リヒャルト・ワーグナー」という名前には、飾り気のない、しかし堂々とした金泥による采色を施して下さい、なにとぞよろしくお願いします。
(1872年、図案工ヨーゼフ・マリア・カイザー宛)
「音楽の手帖 ブルックナー」(青土社)P55

ブルックナーの謙虚さとワーグナーへの尊敬の念、そしてその背面にある作品への自信が垣間見える手紙である。名作の肝腎を大きな両手で鷲づかみにしたクナッパーツブッシュの真骨頂。

・ブルックナー:交響曲第3番ニ短調(1889年稿)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1960.2.14Live)

例によって聴衆の拍手が鳴り止まぬうちに開始される第1楽章は、冒頭から強烈な音調を醸す。悪魔的轟音を発したかと思えば、突如として天使のような柔らかい音が挟まれるのはウィーン・フィルという「楽器」のせいもあるのだろう、とにかく緊張と弛緩のバランスが見事な演奏。続く瞑想的な第2楽章アダージョを経て、堅く引き締まり、凝縮された緊張感の第3楽章スケルツォの宇宙的拡がり、またトリオに見る朗らかな喜びの歌に感動。そして、遅いテンポで繰り出される終楽章アレグロの怪獣のような咆哮に、大宇宙の爆発による生起を思う。

クナッパーツブッシュの音楽は、天才的な直観から生まれてくるもので、北方の血のみがなしうるものである。
奥波一秀著「クナッパーツブッシュ―音楽と政治」(みすず書房)P116

 

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2 COMMENTS

雅之

こうした超弩級のブル3も岡本様に言わせると「中庸」なんだろうなあ「中庸」より「極端」じゃないかと「中庸」という単語の定義でのストライクゾーンのコーナーギリギリかなクラヲタも「中庸」とは思えないしなあ絶対「極端」のほうだよね「中庸」は芸術では決して誉め言葉ではないしなあアシュケナージの演奏とかよくそう譬えられるけど世間で「中庸」が好まれるのは「中流」が減り格差社会になったからなのかなあ昔「世界の中庸で愛を叫ぶ」(?)という小説や映画があったけど世界のどこでも「中庸」になるのかなあ僕もヴィオラ弾いてたから「中庸」の中の「中庸」だもんね・・・、あっすみませんうっかり寝てた夢か!!

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岡本 浩和

>雅之様

言葉のとらえ方、そして表現の仕方は千差万別で、だからこそ「真実」というのは言葉に表せず、とらえきれないものなんだと思います。
音楽の世界に限ってもどんなものも必ず賛があれば否があるもので、それでも後世にわたって残って行くだろう録音を「中庸」ということにしておきませんか?(笑)
その意味では、アシュケナージは違います。いや、アシュケナージにも残るだろう名録音はあります。例えば、POとのモーツァルトK.488とか。

すべては儚い夢ですわ。

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