風雅

bach_art_of_fugue_emerson_q.jpg夕べ、少しばかりジャン・ユボーが弾くフォーレのピアノ曲を聴いていて、フォーレもやっぱりJ.S.バッハの影響を受けてるんだとふと感じた瞬間があった。ピアノ小品集作品84。よくよく内容を見てみると、第3番と第6番はフーガ。道理で・・・。これは別々の時期に作曲された小品を1902年にまとめて出版したものらしいが、こういう何でもない音楽をじっくりゆっくりと堪能してみると意外な発見がある。

クラシック音楽絡みの講演をさせていただく時にお話しするのは、クラシック音楽は決して高尚でも難解でもないということ。眠くなれば寝ればいいし、何気なく聴き流すというのでもいい。何となく耳にしていても、ついつい「気に留まる」旋律が出てくるものだ。「いいな!」と思えた瞬間、音楽があなたの心を捕らえた瞬間なのである。そして、「いい」と感じた音楽を繰り返し聴くこと。反復することで必ず新たな発見がある。物事は何でもそうやって習得、自分のものにしていけば自ずと楽しくなる。

それにしてもイチローという選手は、持って生まれた才能を別にしても野球を楽しんでいるところがかっこいい。WBCのプレッシャーから胃潰瘍になったところからしても一介の人間であり、その「人間らしさ」を感じられるところが一層クールである。野球をするために生まれてきたようなものだから彼の中では当たり前のことなのだろうが、目に見えないところでの努力たるや大変なものだと聞く。やっぱり「好き」だから「やる」し、「やり続ける」のであろう。目標をクリアするたびに新しい目標を見定めて挑戦するという姿勢は見習いたいものだ。

歴史上、名前を残す偉人は誰しも、使命を意識し、日々努力し、ひとつのことをやり続けるのだろう。フォーレの音楽を聴き、J.S.バッハを聴き、そしてブルックナーのいくつかの交響曲を聴きながらそんなことを考えた。

J.S.バッハ:フーガの技法BWV1080
エマーソン弦楽四重奏団

バッハ最晩年の問題作「フーガの技法」の弦楽四重奏版。ピアノのシンプルな響きも捨て難いが、弦楽器の持つ「癒し」のパワーを転写させることでこの謎の音楽が一気に生き返るような錯覚を覚える。何とも優雅で、かつ何とも意味深で。
「フーガ」という曲種は音楽家にとって一流になるための登竜門のようなものなのかな?フーガの扱いが上達することでその作曲家は一気にスターダムに伸し上がるような・・・。それに、聴いている側も、最高のフーガを耳にすると居ても立ってもいられなくなる感動を覚える。結局いつの時代のどの作曲家もバッハのこの曲集の影響を受けているのだろう・・・。偉大なり。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
イチローは私の地元出身ですが、愛工大名電時代の、あの細い体の鈴木一郎が、ここまで大物になるとは思ってもみませんでした。彼が、ドラフト4位でプロ野球入りしたことを考えれば、ドラフトなんて、ピアノのコンクールと同じで、スカウトや審査員が規格外の逸材を見抜くことは、本当に難しいことなんだと、つくづく思います。登録名を「鈴木」から「イチロー」に変更することを発案し、野茂やイチローの才能を見抜き発掘した、近鉄やオリックスの監督だった仰木さんも偉大ですね。よき指導者との出会いというのも、成功するうえで、極めて大切ですね。
しかし現在のイチローの言動を聞くと、「いいか男は 生意気くらいが丁度いい」という、川島英吾の「野風増」を口ずさびたくなります。本当に生意気な奴ですよね(笑)。野球監督も、自分より才能のある選手を使いこなし、チームを優勝に導かなければならないのですから、大変です。昔は、男の憧れの職業は、指揮者と野球監督だということが、よくいわれたものですが、男冥利に尽きる職業とはこのことだと、私も思います。
ところで、バッハ以後で、バッハの影響を受けていないクラシックの作曲家はいないでしょうね。ご紹介のフォーレのピアノ曲は聴きこんでおりませんが、確認してみたいですね。「フーガの技法」の弦楽四重奏版、私はエマーソンSQとともに、ケラー四重奏団盤も好きです(今はSHM-CDしか売っていない、レコード会社に“喝”だ!)。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2757848
両盤ともよく考え抜かれた演奏で、しかも乗りも良く、ピリオド奏法ではないのも私好みです。
「フーガ」ときいて、今朝はなぜか「雁行型経済発展論」を思い浮かべましたが、また長くなりますので、このへんで・・・(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
僕は昔のイチローについては詳しくないですが、ドラフトではあまり注目されてなかったんですね。
>よき指導者との出会いというのも、成功するうえで、極めて大切ですね。
おっしゃるとおりだと思います。
昨日の朝日新聞の夕刊にピリスのインタビューが掲載されていましたが、彼女は「すべてのレパートリーを弾けなければいけない、と思う必要はない」、「勝ちたいと思うことは、誰かの負けを望むということ。その考え自体がもう、芸術家のものではない。芸術は闘いではなく、自由からしか生まれ得ない」、「生涯をかけてやりたいのは、ピアノという楽器を通じ、様々な音楽を発見していくことだけ。分析する知性も必要だけど、舞台の上ではアーティストは、できるだけシンプルでいる方がいい」などコンクールなどに懐疑的な発言をしています。とても共感できます。さらに「誰もがみな、芸術的な世界を内に持っている。それを外に表現して世界と結びつこうとする人をアーティストと呼ぶだけのこと。アーティストは特別な人間ではない」と言っているのです。すばらしい!こういう考えの芸術家が増えるといいですね。まさに良き指導者に相応しいと思います。
22日はピリスのリサイタルですが、一層楽しみになりました。
イチローの発言は聞きようによっては生意気ですが、むしろ清清しいですよね。僕は好きですね。
「フーガの技法」についてはケラーのものは未聴ですので聴いてみたいです(しかしSHM-CDだけとはいただけない・・)。
>なぜか「雁行型経済発展論」を思い浮かべました
何ですか、それは?興味深いですね。

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » エマーソン弦楽四重奏団の「フーガの技法」を聴いて思ふ へ返信するコメントをキャンセル

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