サンソン・フランソワのショパン「ワルツ集」を聴いて思ふ

chopin_valses_francoisウィーンでは太陽は昇りたがらない。ランナーとシュトラウス、それに彼らのワルツが、すべてを翳らせてしまうのだ。

ワルツ作品18の出版をウィーンでと望んでいたショパンは、それが叶わず、そう嘆いたという。1830年前後のウィーンはヨーゼフ・ランナーやヨハン・シュトラウスⅠ世のワルツ一色だったのだとか。その人気ぶりはいかばかりだったのか・・・。

「踊るワルツ」でなく、「聴かせるワルツ」の先鞭をつけたのはシューベルトだそうだが、「聴かせるワルツ」をひとつの芸術的境地にまで高めたのはショパンその人だろう。
久しぶりにサンソン・フランソワの弾くショパンの「ワルツ集」を聴いて思った。何というエスプリ!!ピアノがまるで生物のように有機的に鳴り響き、音楽が自由に飛翔する。
想像が駆け巡った。1830年代にタイムスリップしたらば・・・、ショパン自身はこんな音楽を奏でていたのでは?実にお洒落だ。

ショパン:
・14のワルツ集(1963.1.14, 15, 29 &30録音)
・4つの即興曲集(1957.11.27録音)
サンソン・フランソワ(ピアノ)

絶妙なテンポの揺れと「間(ま)」の魔法。例えば、「小犬」を含む作品64の3曲!!
ショパン晩年の名作だが、とても病に伏し、精神的にも追い詰められたような印象はなく、匂い立つ優雅な香りに舌を巻く。
第1曲「小犬」冒頭の旋回する主題は爽やかに薫る風光を思わせる。何という詩的な・・・。
そして、第2曲嬰ハ短調の哀感と貴族的情緒に思わず踊り出したくなるほど。ルバートで奏される主題に涙し、急速な旋回的モチーフにショパンの激情を想う。
さらに素晴らしいのが第3曲変イ長調!!モデラートの主部の語りかけるような旋律に思わず和み、幾度も転調されるトリオの立体的移ろいに感激する。

「別れのワルツ」の後ろ髪を引かれるような「悲しみ」にショパンの天才を見る。ここでもフランソワの主題の歌わせ方、妙なる間合いの取り方にため息が出るほど。婚約にまで発展しながら叶うことがなかったマリア・ヴォジンスカとのひとときの恋と別れの苦しみがそのまま転写されるようだ。

ところで、記念すべきショパンの最初のワルツ作品18「華麗なる大円舞曲」。このあまりに有名な作品を最近はほとんど耳にすることがなかったが、フランソワの演奏に初めて聴いた時のような「震え」を覚えた。軽妙で洒脱で。特に、ふと浮き上がる左手の旋律にこの偉大なピアニストの才能を再発見した。

生きていたらこの人も90歳。老練のフランソワを聴いてみたかった。


2 COMMENTS

畑山千恵子

サンソン・フランソワに関する本がアルファ・ベータから出ました。「ピアニスト フランソワの粋を聴く」というタイトルです。私も読んでみようかと思います。ただ、最近、アルファ・ベータは、萩谷由喜子さんの「諏訪根自子」、ジョナサン・コット、山田治生訳「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタヴュー」はいいとしても、「カラヤン幻論」は評判がよくないようで、出版にムラが出てきたようです。

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