デュトワ指揮モントリオール響のラヴェル「ダフニスとクロエ」(1980録音)を聴いて思ふ

ravel_daphnis_et_chloe_dutoit746何事も夢見ることから始まる。
「夢想」という言葉が素敵だ。

音楽を書きながら私がめざしたのは、古代趣味よりも私の夢想のうちにあるギリシアに忠実であるような、音楽の巨大な壁画を作曲することだった。その壁画は、18世紀末のフランス画家たちが想像し描いたものに、いわばおのずと似通っている。
(ラヴェル「自伝素描」より)
「作曲家別名曲解説ライブラリー11ラヴェル」(音楽之友社)P25

モーリス・ラヴェルの音のパレットには一体いくつの色があるのだろう?
何という色彩豊かな音楽!セルゲイ・ディアギレフからの委嘱により作曲されたバレエ音楽「ダフニスとクロエ」(それでいてこの作品は初演当時ディアギレフからはなおざりにされたのだけれど)を聴きながら、舞踊と音楽が一体になることで創造者のインスピレーションが一層刺激され、他に類を見ない美しい音楽が生み出された奇蹟を僕は想像した。
創造の発露には何より(当時数々の傑作を生み落していた)イーゴリ・ストラヴィンスキーの存在も大きいだろう。

「火の鳥」「ペトルーシュカ」そして「ダフニスとクロエ」が上演されたロシア・バレエ団の幕開けのシーズン中、ラヴェルとストラヴィンスキーは折に触れて、お互いのリハーサルに顔を出した。・・・ストラヴィンスキーはラヴェルに彼の最新作のバレエ「春の祭典」の手書き譜を見せた。ラヴェルは非常に熱中し、リュシアン・ガルバンに宛てた手紙で、「春の祭典」の初演は「ペレアスとメリザンド」に匹敵する重要なイベントになるだろうと予言した。
アービー・オレンシュタイン著/井上さつき訳「ラヴェル生涯と作品」(音楽之友社)P85

20世紀のあの名曲に熱中し、スキャンダルを予想したラヴェルのセンスに脱帽。
モーリス・ラヴェルの作品は色鮮やかで、また色香匂う。嗚呼、美しい。

・ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」
モントリオール交響合唱団
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団(1980.7.25-8.2録音)

実に精緻でありながらニュアンス豊かな音楽が繰り広げられる。
例えば、緩やかで静謐な第2部序奏の直後の「戦いの踊り」における野蛮な土俗の中にある洗練。どんな音調であろうとデュトワの音楽は明快でかつ流麗。
それにしても、第3部冒頭の、聴く者を夢の世界に誘う音楽は幾度聴いても感動的。
そして、全員が歓喜の大乱舞を繰り広げる熱狂の音楽は、ある意味「春の祭典」を凌駕する。

「音楽と舞踏」(ルヰ・マンダン)
もしも私がお前の笑ひを
私の手のひらにくんで
其処に金の鈴のやうな
響を出させる事が出来たら、
だまつてそれをききながら
明日の朝の夜明けまで
あの撫でても見たいやうな
虚空の花の星どもは
清い大空で
流暢なワルツを踊り出し
私を抱きに来るだらう。

そうしてだまつて酔ひ痴れながら
果しもないワルツの中に
私は道に迷ふだらう、

お前の笑ひを踊らせた為に。
堀口大學「月下の一群」(講談社文芸文庫)P544-545

音楽は踊りと相まって狂気と化すのだろうか・・・。すべては夢の中。

 

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2 COMMENTS

雅之

もしもディアギレフがいなかったら、ラヴェルがいなかったら、そしてチャイコフスキーがいなかったら、クラシック音楽の世界は、ずいぶんと寂しいものになっていたでしょうね。

>音楽は踊りと相まって狂気と化すのだろうか・・・。すべては夢の中。

同性愛者たちの夢精。

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