大管弦楽による、死の影濃厚な詩。
おそらくこの作品も、実演に触れない限り真髄はわからないのだろう。
儚くも悲しい音楽。
また、濃密な色香もつ音調。
愛と死とはやはりひとつなのだろうか・・・。
ドビュッシーが先に名を上げたことから、シェーンベルクはこの物語のオペラ化を棚上げしたといわれるが、言葉を持たない交響詩ゆえの真実味がここにはある。
運命というのは、どこでどう切り替わるのかわからぬもの。
ゴローと出逢ったことでメリザンドは不本意な結婚を強いられたものの、そのことがあったがゆえにペレアスとの邂逅があり、二人は恋に落ちた。しかしそれがまた彼らに死を呼び込む。そして、確かにこの愛は死と同化する、死をも包括する純愛(?)だった・・・。
ワーグナーを髣髴とさせる静かで妖艶な旋律。
そして、リヒャルト・シュトラウスのお株を奪う金管群の咆哮。
世紀末の退廃美を引きずる、20世紀初頭の覚醒。
シェーンベルクは、聴く者のイマジネーションを見事に喚起する。
シェーンベルク:
・交響詩「ペレアスとメリザンド」作品5
・管弦楽のための変奏曲作品31
ピエール・ブーレーズ指揮シカゴ交響楽団(1991録音)
ブーレーズはやはりブーレーズらしく、研ぎ澄まされた感覚で、音楽を客観的に、また緻密に表現する。
アルケル わたしには何も見えなかった。―確かにそうだったのかな・・・。
医者 確かですとも。
アルケル わたしには何も聞こえなかった・・・あんなに早く、あんなに・・・あっけなく・・・あれは一言もいわずに立ち去った・・・。
~メーテルランク作/杉本秀太郎訳「対訳ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)P203
言葉の無意味さ。メリザンドが真相を伝えぬまま死にゆく最期の音楽は、胸が締めつけられるほど哀しく美しい。
ここには死への肯定がある。
一方、主題と9つの変奏、そして終曲から成る「変奏曲」は十二音技法によって書かれた大管弦楽作品だが、ここには生への強烈な憧憬がある(ように最近の僕は特に感じる)。1928年の、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルによる初演の際には大変なセンセーションを巻き起こしたらしいが、その音楽は決して聴き難いわけでなく、むしろ、大宇宙の鳴動を思わす自然美に満ちる。なるほど、生は自然との合一だ。
実際のところ、ブーレーズはこの作品には懐疑的だった。ただし彼は、演奏する義務が自分にはあると断言した。ブーレーズの機械仕掛けのような精密な演奏にこそそういう美が見出せることが何とも不思議だ。
今や現代の古典として生き残るシェーンベルクの無調作品は、たとえナチスが退廃音楽と銘打ったものだとしても、いかにも自然の生成と同期し、聴いていて不快どころか、空気のようになくてはならぬもののように感じられるところが素晴らしい。
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>いかにも自然の生成と同期し、聴いていて不快どころか、空気のようになくてはならぬもののように感じられるところが素晴らしい。
そういう意味では、シベリウスの「ペレアスとメリザンド」もいいですよね。
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シェーンベルク、シベリウス、 ドビュッシー、 フォーレによる「ペレアスとメリザンド」、雄作曲家同士の縄張り争い!真剣勝負!!
このところ毎週週末は山歩きをしていまして、「ウグイスの谷渡り」なんていう愛の隠語を連想しながら、内心でニヤつきながら登っております。
>雅之様
シベリウスも良いですよねぇ。
それにしてもご紹介の音盤は迂闊にも知りませんでした。
これはなかなか魅力的です。
ありがとうございます。
愛の隠語を連想しての山歩き、お疲れ様です。(笑)
ちなみに、ご紹介のブーレーズ盤は見聴です。
ウグイスの雄のさえずりも一羽一羽違っていて、作曲家や演奏家同様に面白いです(笑)。
鶯となり声そそぐ墓の親 品川鈴子 (掲載誌『船出』2001年4月号)より
※ 6月10日にお亡くなりになった宇野さんからも、愛と死について両親からと同じくらい多くのことを教わりました。心から感謝しております。
>雅之様
まったく同感です。
楽器も何もできない僕などは、宇野さんのお陰でクラシック音楽に開眼したようなものです。