バレンボイム&クレンペラーのベートーヴェン協奏曲第4番ほか(1967録音)を聴いて思ふ

ベートーヴェンのハ短調の協奏曲については、僕は長い間ピンと来ていなかった。
ある日、ダニエル・バレンボイムを独奏者に据えたオットー・クレンペラーの演奏を聴くに至り、一気に視界が開けたことを思い出す。
いつものクレンペラー節、青年バレンボイムと四つに組み、重厚だけれど清廉な音楽が再生され、どの瞬間も世界は生き生きとする。

いかなる人間も
神々と
力をきそうべからず。
もし人、高く伸び上がりて
頭もて星に触れなば、
おぼつかなき足は
踏みしむるところなく、
雲と風に
もてあそばる。
「人間性の限界」
高橋健二訳「ゲーテ詩集」(新潮文庫)P98-99

第1楽章アレグロ・コン・ブリオ。ベートーヴェン自作のカデンツァの煌き。
謙虚でありながら、巨匠に堂々と張り合うバレンボイムの、一切の無理のない自然な音楽。
また、第2楽章ラルゴ冒頭のピアノ独奏の穏やかで優しい響きと、それに応える管弦楽の情感豊かな表情。何という美しさ。

人間は気高くあれ、
情けぶかくやさしくあれ!
そのことだけが、
我らの知っている
一切のものと
人間とを区別する。
「神性」
~同上書P121

そして、終楽章ロンド、アレグロの決して軽やかとは言えない演奏には、独特の緊張感が漂い、それがまたひとつの気品のようなものにつながるのだから巨匠の棒というのは本当に不思議。

ベートーヴェン:
・ピアノ協奏曲第3番ハ短調作品37
・ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58
ダニエル・バレンボイム(ピアノ)
オットー・クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1967.10&11録音)

相変わらずテンポの遅いト長調協奏曲。どの瞬間も音楽は意味深く、僕たちを圧倒する。

ああ、あの美しかった初恋の日を
呼び返してくれる人があるならば!
ああ、あのうれしかった時のひと時でも
呼び返してくれる人があるならば!
「初恋を失って」
~同上書P134

第1楽章アレグロ・モデラート。冒頭のピアノ独奏からあまりに悲しく、音楽はゆっくりと、またじっくりとため息をつくようにためを作って進む。主題がピアノで回帰する「その時」のカタルシス。涙がこぼれそう。

憂いよ、去れ!―ああ、されど、死すべき人間なれば、
生ある限り、憂いは去らず。
避け難きものとあらば、来たれ、愛の憂いよ、
他の憂いを追いて、なんじひとりわが胸を領せよ!
「甘き憂い」
~同上書P149-150

続く、第2楽章アンダンテ・コン・モートの憂愁。クレンペラーが祈る。
そして、終楽章ロンド、ヴィヴァーチェの解放。バレンボイムが跳ねる。

われわれにはいろいろ理解できないことがある、
生き続けて行け、きっとわかって来るだろう。
~同上書P239

ゲーテの言葉はいずれも重く深い。しかし、そんな彼でさえ、時にこんな詩を書くのだ。

わが友、読者よ!
君なくば、
我はそも何ぞ!
感ずるところみな独りごとに終り、
わが喜びもことばを知らず。
「作者」
~同上書P47-48

需要あっての供給。あなたがいて私があるということ。すべては連関の中にあるということ。

 

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2 COMMENTS

雅之

音楽は・・・・・・融通無碍(むげ)にいろいろな方向に人を引っ張り込む力をもつ危険な存在である  渡辺裕

鷲田さんのことば
     
ベートーヴェンの「第九」は、ドイツの労働者運動でもナチスの宣伝活動でも、東京帝大の出陣学徒壮行大音楽会でも戦後民主化の「うたごえ運動」でも、論理を超えて人々の感情を攫(さら)う媒体として絶大な効果を発揮した。昨今のような“感動”や“怒り”の「大安売り」の時代には、その効果を制御しうる醒(さ)めた知を鍛えねばと、他ならぬ音楽学者が言う。『音楽は社会を映す』から。

朝日新聞デジタル 2017.7.25配信 鷲田清一「折々のことば」823  

http://www.asahi.com/articles/ASK7L4GDLK7LUCVL00T.html

こういう発言に見習うべきだと共感してしまう、すっかりひねくれてしまったのが現在の私です(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様

>制御しうる醒(さ)めた知を鍛えねば

むしろベートーヴェンの真意と近いのではないですかね?
第九などもプロパガンダに利用されるなんて微塵も思っていなかったでしょうし、
彼は本当は醒めた目で知的な音楽を創造しようとしたのではないかとも想像します。
ということで、雅之さんはひねくれているのではなく、先を行き過ぎているのだと思います。
ですよね?(笑)

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