ラファエル・パヤーレ指揮NHK交響楽団 ショスタコーヴィチ 交響曲第5番ほか(2020.1.31Live)

そろそろ実演が恋しい。
今年1月のNHK交響楽団第1933回定期演奏会は、オール・ショスタコーヴィチ・プログラム。NHKホールには音響の問題で好んで訪れることはないのだが、よほど気になる作品がプログラムに載るときは、僕はあえて3階の自由席を確保する。何より左右の壁際の座席に関しては、不思議によく聴こえるから。
しかし、しばらくNHK交響楽団の定期演奏会には行っていない。
今夜Eテレで放映された、ベネズエラの新星ラファエル・パヤーレのプロフィールどころか名前すら僕は知らなかった。ショスタコーヴィチの音楽に心酔しているという彼が果たしてどんなショスタコーヴィチを披露するのか、期待半分、興味本位で観た。

音楽の本質はともかく、外面的にはとても明るい、悪く言えば浅薄な印象。
しかしながら、そこには作曲家に対する十分な尊敬の念は感じられた。
バレエ組曲第1番は、音楽の性質上、パヤーレに向いた曲だ。十分に皮肉っぽく、しかし、喜びに満ち、とっつきやすい。パヤーレの指揮も、彼の律儀な性格を表わしているようで正確だ。

続く、アリサ・ワイラースタインのチェロ独奏を伴う協奏曲は、さすがに外面は暗い。特に、室内楽的な、切り詰めた音で苦悩の内面を表現しようとするショスタコーヴィチの、不要な一切のものをそぎ落とした音調に魂が震える思い。そして、虚空を見つめ、のめり込むように思念を刻むワイラースタインの、自由自在の楽器の弾きっぷりに僕は息をのんだ。

ショスタコーヴィチ:
・バレエ組曲第1番作品84b(1949)
・チェロ協奏曲第2番ト短調作品126(1966)
・交響曲第5番ニ短調作品47(1937)
アリサ・ワイラースタイン(チェロ)
ライナー・キュッヒル(コンサートマスター)
ラファエル・パヤーレ指揮NHK交響楽団(2020.1.31Live)

パヤーレはゆったりと、堂々と音を鳴らし、そして真摯に音楽に没頭する。
彼の解釈は、作品に対するこれまでのイメージを徹底的に覆すものだろうと事前のインタビューから想像したが、さにあらず。彼は極めて正統的に音楽を、無理せず、調える。ショスタコーヴィチの書いた音楽を、政治的な側面含めた思念は横に置き、あくまで絶対音楽として表現しようとする意志が働くようだ。
僕は第3楽章ラルゴが気に入った。
さすがにショスタコーヴィチの音楽を愛する指揮者だけあり、作曲家の思い入れ激しい、悲哀の楽章の音化には思わず気合いが入る。それでいて、音楽そのものは実に静けさに富むのである。ほぼアタッカで奏される終楽章アレグロ・ノン・トロッポの開放的音調も素晴らしい(パヤーレはコーダではテンポを速め、果敢に締めくくる)。何と自信と確信に溢れた音楽だろう。

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