泣く子も黙るモーツァルト全盛期

mozart_19_20_argerich_rabinovich.jpgエントリーシート添削が一息つき、国立オリンピック記念青少年総合センターでの中学生向けキャリア講座が明後日に迫っていることもあり、その準備をそろそろしなければと考えながらも、一方で来週末の「早わかりクラシック音楽講座」でモーツァルトのどの曲を採り上げるかもそろそろ真面目に考えなければならず、いくつかのピアノ協奏曲を聴くことにする。はや31回を迎える今回の講座のテーマは『絶頂のウィーン時代~モーツァルト:1784年~1786年』。そう、父レオポルトやザルツブルク大司教の呪縛を振り払い、1781年にウィーンに移住したモーツァルトが、いよいよ人気作曲家の頂点を極め、毎月のように開催される予約演奏会が満員御礼になるという空前絶後の事態を迎える頃のことを振り返りながら当時生み出された音楽をいくつか聴いて楽しんでいただく予定である。
ちなみに、この3年間でもっとも目を見張るのが、第14番変ホ長調K.449に始まり第25番ハ長調K.503まで生み出された名作ピアノ協奏曲群だろう。どこからどう切り取ってもモーツァルトの天才の疑いようのない真実が垣間見える。

特に、第19番ヘ長調K.459と第20番ニ短調K.466の間には信じがたいほどの進化が見られるのだが、このわずか数ヶ月間にモーツァルトの内に何が起こったのか?(ちなみに第19番が1784年12月11日完成、第20番が85年2月10日完成)

そう、1784年12月14日のフリーメイソン入会である(第19番作曲直後!)。フリーメイソンという謎の秘密結社については勉強不足で多くを語ることはできないが、「自由、平等、友愛」をスローガンとし活動している点、あるいはモーツァルト自身が歌劇「魔笛」の台本に見られるような陰陽を包括した見方を提起している点などを考慮すると、いわゆる真理を見抜いたかなり僕好みの(笑)全うな集団なのかもしれない。

しかしながら、こういった精神的芸術的充足と共に、モーツァルトの人気には少しずつ翳りが見え始め、(父親の死とも相まって)最終的には経済的困窮を極めてしまうことは皮肉といえば皮肉である。現代の我々の耳からするととても信じられない話だが、彼の生み出す作品はあまりに進化、深化し過ぎて当時の一般大衆にはまったく理解できなかったらしい。聴いてくれる人がいなければどんな傑作でもただの音の連なりと化してしまうのだからこればかりはどうしようもない。

モーツァルト:
・ピアノ協奏曲第19番ヘ長調K.459
アレクサンドル・ラビノヴィチ(ピアノ)
・ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
アレクサンドル・ラビノヴィチ指揮パドヴァ管弦楽団
・2台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365
イエルク・フェーバー指揮ヴュルテンベルク室内管弦楽団

アルゲリッチとラビノヴィチがソロを分け合ってその両曲を弾くという好カップリング盤。第19番にはもうすでにフリーメイソン後のモーツァルトの片鱗が伺える。明るさの中にデモーニッシュな何かただならぬ雰囲気が読みとれるのだ。この頃にはもうモーツァルトの内には何かが起こっていたのだろうか。アルゲリッチの第20番については何も語るまい。―数年前、フリードリヒ・グルダのメモリアル・コンサートの際に聴いた実演が忘れられない。


3 COMMENTS

雅之

こんばんは。
ご紹介のCDの演奏は、真剣勝負と遊び心の両立が見事で、私も大好きです。
屈指の名曲、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番をアルゲリッチで聴かれたご体験は羨ましい限りです。
ところで20番のカデンツァ、ご存知の通りベートーヴェン作が最も有名で私も聴いていて待ち遠しい部分なのですが、あまり弾かれないブラームス作も大変な名作ですよね。ブラームスをこよなく愛する岡本さんにお尋ねいたしますが、これを使用したCDはないのでしょうか? 
カデンツァの部分だけならビレット演奏のCD(Naxos)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/579942
があり、とても貴重な音資料なのですが、やはりピアノ協奏曲と一体で聴きたいものですが・・・。
フリーメーソンの件は、興味深いですよね。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ブラームスのカデンツァ、ご紹介の盤はともかくピアノ協奏曲としては僕も聴いたことがないんです。
いろいろと調べてみると、以前N響定期でブラームスのカデンツァを使った人がいたらしいです(いつ誰の演奏かはいまのところ不明ですが)。
>やはりピアノ協奏曲と一体で聴きたいものですが・・・。
同感です。

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » フルトヴェングラーのモーツァルトK.466

[…] ところで、ベートーヴェンが自作のコンチェルトのカデンツァをいくつか創作した際、高く評価していたモーツァルトのK.466のためのカデンツァも書いている。このカデンツァ、とても有名でグルダやアルゲリッチ、あるいは内田光子など現代でも多くのピアニストが採用するほど。さしづめ、モーツァルトとベートーヴェンの共演というところ。 […]

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