Souvenir

bruckner_motett_flamig.jpg昼前、所用で蔵前あたりをぶらっと散策したが、目抜き通りにはいかにも老舗というお店があちこちに点在し、江戸の情緒をほんの少しだが感じさせる風情が何ともいえない。休日だからか車の往来も少なく、本当ならもう少しゆっくりしてもよかったのだがそうもいかず。

ウィーンからのお土産が届いた。アントン・ブルックナーがリンツの新大聖堂にある奉納礼拝堂落成の祝典のために創作したモテット「この所を創り給うたのは神である」をドプリンガー社が一般公開用に写真複製したいわゆる手稿譜。
ブルックナーの宗教音楽、特にモテット集に関してはマルティン・フレーミヒ指揮ドレスデン十字架合唱団盤を愛聴するが、わずか2分半ほどのこの「Locus iste(この所を創り給うたのは神である)」は中でも清澄な美しさをもつ傑作である。

Locus iste a Deo factus est inaestimabile Sacramentum; irreprehensibilis est.
この場所は、神の創りたまえるところ。比類なき秘蹟は、決して誤ることなきものなり。

たったこれだけの歌詞が、そこはかとない「美」を伴い無伴奏混声4部合唱によって歌われる。特にフレーミヒ盤では女声合唱に代わり少年合唱が起用されている点が聴きものである。まさに天使の歌!

せっかくなので、もう1枚。オイゲン・ヨッフムがベルリン・フィル他と録音した宗教曲集に収められている音盤を。

ブルックナー:モテット昇階誦「この所を創り給うたのは神である」ハ長調WAB23
オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送合唱団

bruckner_locus_iste_jochum.jpg宗教家アントン・ブルックナーの面目躍如たるモテット集の中でも、聖なるブルックナーの音楽が見事に表現され、その本質がむき出しにされるような生々しさを
もつ。ただし、個人的な好みという点では、フレーミヒ盤に一日の長あり。いかにヨッフムといえども天使の歌声には敵うまい。ちなみに、作曲は1869年8月11日ということだから第1交響曲と第2交響曲の狭間ということになる。ところで、この年の春、ブルックナーはパリへの演奏旅行を敢行する。ノートルダム寺院での演奏では客席にはセザール・フランク、カミーユ・サン=サーンス、フランソワ・オベール、そしてシャルル・グノーら当時のパリを賑わす著名な音楽家たちの姿もあったという。後日、ブルックナーはよき理解者であったヨハン・バプティスト・シーダーマイヤー宛に次のように報告している。

「パリでも私は2回演奏いたしました。最初はオルガン製造者のメルクリンの工房で、そして次はノートルダムにおいてです。ノートルダムにはパリなどから著名な芸術家たちが集まってきました。最後に私はテーマを出してくれるように求めました。パリ出身の最も偉大なオルガン奏者たちのひとりが出してくれましたので、私はこのテーマを3つの部分で展開し終えますと、成功は限りないものとなりました。今後このような勝利を体験することは決してないと思います」
※手紙の部分は「作曲家◎人と作品 ブルックナー(根岸一美著)」(音楽之友社)から引用

ただし、ブルックナーの言う最も偉大なオルガン奏者たちのひとりが誰を指すかは確かでない(しかしながら、僕は、せっかくなので「早わかりクラシック音楽講座」の今月のテーマでもあるサン=サーンスであると信じたい。それにしても、19世紀後半のパリとは何と素敵な時代であり、場所なのだろうか・・・。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
モテット「この所を創り給うたのは神である」は美しい曲ですね。
私の持っていたのは、ヨッフム盤のほうでした。ご紹介のマルティン・フレーミヒ指揮ドレスデン十字架合唱団盤は未聴なので、これを機に入手し、ぜひ聴いてみたいです。手稿譜は、興味深いですね。
>サン=サーンスであると信じたい。
私は、ブルックナーと音楽的資質が近いのはセザール・フランクだと思いますが、サン=サーンスの可能性もないとは言えませんね。
その、フランクのオルガン曲も、素晴らしいですよね。
私はSanger 盤がお気に入りです。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%EF%BC%9A%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%83%B3%E4%BD%9C%E5%93%81%E9%9B%86-%EF%BC%882CD%EF%BC%89-Sanger/dp/B000027EZM/ref=sr_1_12?ie=UTF8&s=music&qid=1258841309&sr=1-12
日本の音楽ホールに設置されている高額・豪華なオルガンは、ほとんど無駄の象徴になっていますが、ブルックナー、フランク、サン=サーンスなどのオルガン曲またはオルガンを含んだ曲のプログラムを、もっと積極的に企画するべきではないかと、いつも思っています(オルガン曲だけでの集客が厳しければ、他の作曲家の有名ピアノ曲やオーケストラ曲とも、組み合わせればよいと思います。例えばフランクのオルガン曲とブルックナーの交響曲のプログラムなど、素敵ではないでしょうか?)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
フレーミヒ盤はぜひ聴いていただきたいですね。
>ブルックナーと音楽的資質が近いのはセザール・フランクだと思いますが、サン=サーンスの可能性もないとは言えませんね。
誰だかわからないのが歯がゆいですね。ちなみに、本文中の書籍によると、ブルックナーに出されたテーマはサン・トリニテ教会のオルガン奏者アレクシス・ショヴェーによるものだということです(初めて聴く名前ですが・・・)。
フランクのオルガン曲はいいですね。専ら僕はアラン盤を愛聴してます。おススメの盤は未聴です。
>例えばフランクのオルガン曲とブルックナーの交響曲のプログラムなど、素敵ではないでしょうか?
いいですねぇ、好企画です。

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