松下幸之助氏は、成功の秘訣として「誰もができることをずっと継続してやっていくこと」とおっしゃっている。どんなに厳しい時も決して諦めず、その時にできることを最大限の努力で続けることが大事なのだと。軸をぶらさず、信念を貫き、コツコツととにかく前に進むこと。それしかない。
どんな境遇にもめげることもなく、自身の才能を信じて、その時々に能力を発揮して、最高と自負する作品を生み出し続ける。歴史に名を残す偉大な人々というのは誰もがそういう性質を持っているものなのだろう。このところサン=サーンスを初め、フランス近代音楽をあれやこれや聴いてきた。そういえば合唱音楽は今回の講座のために聴かなかったと思い出し、久しぶりにガーディナー&モンテヴェルディ合唱団が録音したサン=サーンスやフォーレ、ドビュッシー、そしてラヴェルの合唱曲が収録されている音盤(メイン・プログラムはフォーレのレクイエム(オリジナル版))を聴いてみた。無伴奏合唱曲(伴奏が入ってもせいぜいオルガンや小規模の弦楽器)というのは本当に安心感がある。それにまた、フランス語の何ともいえない響きが輪をかけ心を落ち着かせる。
聴き進むうちに、以前採り上げたオールディスがグループ・ヴォカール・ド・フランスと録音したフォーレの合唱曲集についても気になり、こちらも聴いてみた。ラシーヌ讃歌作品11に始まり、アヴェ・ヴェルム・コルプス作品65-1に終わるまことに典雅な響き。これこそフォーレの真髄なり。
ところで、晩年のバーンスタインが達したひとつの境地を示す演奏にモーツァルトのハ短調ミサ曲K.427がある。当時のいかにもバーンスタイン的な粘着質のモーツァルト。あくまでバーンスタインを聴くべき音盤ではあるが、ここにもう一つ飛び切りの名演奏が収録されている。
モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618
レナード・バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団&合唱団(1990.4録音)
モーツァルトが最後に行き着いた、最も簡潔で、最も純化された至高の境地を示す名作「アヴェ・ヴェルム・コルプス」K.618。それを死のわずか半年前のレニーが「無心」に演奏する様が手にとるように伝わってくる。何度繰り返し聴いても飽きない(ちなみに、マタチッチ&ザグレブ・フィル盤も素晴らしい)。
Ave verum corpus natum de Maria Virgine.
めでたきかな、処女マリアより生まれしまことの御体よ、
Vere passum immolatum in cruce pro homine:
真の苦しみを受け人々のため十字架上に犠牲となられた。
cujus latus perforatum unda fluxit et sanguine.
そのわき腹は刺し貫かれ、血を流されぬ。
Esto nobis praegustatum in mortis examine.
そはわれらに死の苦しみを知らしむるであろう。
そういえば、2年前に角筈区民ホールで聴いた高須先生のピアノ・リサイタルではアンコールにリスト編曲による「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が演奏されたと記憶する。あれも素晴らしいコンサートだった。
おはようございます。
「アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618」は、モーツアルトが亡くなった年の作品ですが、この年、臨月を控えた妻コンスタンツェは体調が思わしくなく、モーツァルトを残し、6歳の次男らとともにバーデンの温泉に保養に出向いてますよね。コンスタンツェは5人の子供を出産したにもかかわらず、1人しか生き残らず、他の子は生後間もなくから、半年の間に命を落としていたといいますから、モーツァルト夫妻の出産に対しての精神的ストレス・重圧は、想像を絶していたと思います。
サン=サーンスも、幼い子供と二度も死別していますし、ヴェルディも結婚して一男一女を授かったのに2人とも早世、おまけに妻とも結婚して4年で死別です。マーラーも長女を5歳で亡くしていますよね。また、指揮者ワルターは、1939年夏、第2回ルツェルン音楽祭中、次女のグレーテルが夫に射殺され、その夫も自殺するという悲劇に見舞われ、その後、愛する妻にも卒中で先立たれてしまいました。
どの出来事ひとつとっても、もし私だったら悲しくて気が狂うだろう出来事ばかりです。
しかしみんな掛替えのない愛する家族を失う悲しさに耐え、乗り越え、一生懸命に天分を全うしたんですね。
>どんなに厳しい時も決して諦めず、その時にできることを最大限の努力で続けることが大事
>どんな境遇にもめげることもなく
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バーンスタインは妻フェリシアを1978年にガンで亡くしてから、その指揮から導かれる音楽が、明らかに変わっていきました。その理由は、自身の肉体的な衰えだけではないと私は思います。死のわずか半年前のレニーが「アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618」を指揮した時、彼の脳裏には、やはり最愛の妻との美しい数々の思い出が去来していたのでしょうか。
>雅之様
おはようございます。
モーツァルト、サン=サーンス、ヴェルディ、マーラー、そしてワルターも、おっしゃるとおり数々の試練を乗り越えて素晴らしい音楽を生み出し続けました。
>しかしみんな掛替えのない愛する家族を失う悲しさに耐え、乗り越え、一生懸命に天分を全うしたんですね。
ほんとにその通りだと思います。
>死のわずか半年前のレニーが「アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618」を指揮した時、彼の脳裏には、やはり最愛の妻との美しい数々の思い出が去来していたのでしょうか。
そうだと思います。少し前のレクイエムは確か妻フェリシアに捧げられてましたよね。あれと同じ「におい」がします。