沈思黙考

bruckner_8_wand_bpo.jpgまずは深く自身を静かに振り返ること。さしずめ、それは「祈り」ということになろうか。
深く息を吐き、そして深く息を吸う。深呼吸と共に、心身が浄化され、活気に満ちてくる。新しく生まれ変わるためには、ありのままの自分自身をとにかく受容すること。長所も短所も含めてそれが自分なんだと認めること。

そして「開放」である。人は誰でも何かに縛られている。本当の自分を開放すること。本当の自分を知り、受け容れたときに「開放」が始まる。誰しも本来は「自由」なのである。それは決して「自分勝手」と同意でない。あくまで意識は「他」に。それにより「軸」は確固としたものになる。

今日も一日清々しい気持ちで終えることができた。多少の酒を浴び、気持ちよくなりながら、霧雨の中を歩くと一層気持ちが良い。人が素に戻っていく姿を目の当たりにするにつけ、ひとりひとりが本当にユニークな存在であることを実感できる。

第8交響曲のフィナーレが突然頭の中で鳴り響く。いやいや、ちょっと待て。まずは崇高で神聖なるアダージョを聴こう。それはまさに「祈り」の音楽。

「この交響曲は巨人の創造物です。精神的な広がりと畏怖と偉大さとにおいて巨匠のほかのすべての交響曲を凌いでいます。救いがたい不吉なうわさが、しかも専門家の側から出されていたのですが、この成功はほとんど前代未聞のものとなりました。これは闇に対する光の完全な勝利です。各楽章が終わるたびに、途方もない勢いで熱狂の嵐が生じました。要するに、これは、ローマの皇帝でさえこれ以上美しいものは望み得ないほどの勝利であったのです」(1892年12月23日付フーゴー・ヴォルフのエーミール・カウフマン宛手紙)
「作曲家◎人と作品 ブルックナー(根岸一美著)」(音楽之友社)

そして、フィナーレの圧倒的「開放」。特にコーダの目も覚めるような怒涛の響きはいかばかりか。これこそまさに神の降臨であり、自由の飛翔である。この楽曲には名盤が多数存在する。もうかれこれ30年前、僕が初めてこの曲に触れたのは、ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィルのアナログ盤。その後、様々な指揮者でこの不滅の楽曲を享受させていただいた。実演でも何度も耳にした。そのたびに得も言われぬ感動を与えていただいた。

2000年のギュンター・ヴァント最後の来日公演におけるブルックナーの第9交響曲は信じられないほどの高みにあった。たった1回の公演とはいえ、それは身体で感じ目の当たりにできたことは幸運だった。それでもその時、もう一度北ドイツ放送響と来日し、ブルックナーの8番を聴かせてくれるのではないかという淡い期待をもっていた。もちろんそれは叶わなかった。ヴァントが亡くなったとき、1990年の来日公演におけるブルックナーの第8交響曲を聴けなかったことをどれほど悔やんだことか。亡くなる1年前の演奏、そして無くなる3ヶ月前に一般リリースされた演奏。ともかくそれを何度も聴きながら感慨に耽った。今となっては良い想い出である。

ブルックナー:交響曲第8番ハ短調(ハース版)
ギュンター・ヴァント指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(2001.1.19-22Live)

この演奏についてはもう何も語ることはない。朝比奈先生の同年7月の東京公演を収録した音盤同様無心になって多くの方に耳にしていただきたい。そんな風に思わせてくれる限りなく純度100%のブルックナー。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
ブルックナーの8番といえば、最近マタチッチ&N響による伝説の名演がDVD化されましたよね。岡本さんは独自のコネクションで入手されたかもしれませんが、もしまだでしたら、LD時代より画質・音質ともに圧倒的に向上していますので、必見・必聴です。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3653821
私は、この時のマタチッチ来日公演、1984年3月14日のベートーヴェンの2番と、
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3653822
自作「対決の交響曲」(こっちもDVD化して欲しい)の実演に接し、イチコロで圧倒され、打ちのめされています。ベト2など、ベト9の巨大さを予感させる、数少ない演奏だったと今でも思いますし、「対決の交響曲」も凄い傑作だと思いました。N響の演奏に、この日ほど感動したことは、その後一度もありません。ブル8の実演を聴けなかったのは、一生の痛恨事です。
ヴァント晩年の、北ドイツ放送響とのブル9及びシューベルト「未完成」の実演経験は、毎度申しております通り、羨ましい限りです。なお、CDで聴くヴァントのブルックナーは、何故か昔LPでも聴いたケルン放送響との全集が最高だと思うことが、このごろ多いです。ヴァントのブルックナー演奏の「ぶれない自分軸」の原点はここにあり、オケの音色にも無駄な要素を感じません。再評価されて然るべきです。
クナのブル8、適切なテンポ感とはこのこと・・・、あーあ、今朝も過去の遺産についての話題ばかりでしたね(笑)。時代の閉塞と、こっちの加齢と・・・。
お互い、音楽鑑賞の趣味についても、もうちょっと未来志向にならないものでしょうかね?(苦笑)

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
マタチッチ&N響のブル8出ましたね。そうですか、LD時代より音質画質とも改善されてますか。これは「買い」ですね。
>1984年3月14日のベートーヴェンの2番と、自作「対決の交響曲」(こっちもDVD化して欲しい)の実演に接し、イチコロで圧倒され、打ちのめされています。
羨ましい!!僕はチケットを入れ損ねたか、他の理由だったかで行けなかったのです。ブル8もそうです。まさに一生の痛恨事です。
>昔LPでも聴いたケルン放送響との全集が最高だと思うことが、このごろ多いです。
なるほど・・・。長い間この録音は耳にしていないですが、ヴァントのブルックナーの原点という意味ではおっしゃるとおりかもしれませんね。久しぶりに聴いてみようかな。
>お互い、音楽鑑賞の趣味についても、もうちょっと未来志向にならないものでしょうかね?
こればっかりはしょうがないかもです(笑)。

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