フルトヴェングラー55回目の命日に

brahms_2_furtwangler_lpo.jpg神奈川県にある某大学を訪れた。「エントリーシートの書き方」講座。必修の授業だからとなかば投げやりに参加する学生も中には見られるが、この時期ともなるとほとんどの学生の眼差しは真剣になる。つい先日のニュースでは、今年の大学生の内定率は62.5%で(10月1日現在)、氷河期並みの下げ幅なのだと。1,2年前の「売手市場」が嘘のようである。こういう時こそ個人の「頑張り」が功を奏する。「備えあれば憂いなし」。ともかくできる準備を決して怠らず、地道に訓練し、行動をとり続けることが大事。

2日間の「ワークショップZERO」にご参加いただいたA君からメールをいただいた。
「やはり岡本さんに会えて、超ラッキーでした。・・・貴重な体験をもとにまた、色々な事にチャレンジしてみようと思います。・・・」
喜んでいただけて本当に良かった。次回(12月19日&20日)に向けてまた頑張ろうと思える素敵なメッセージである。こちらこそありがとう。

フルトヴェングラー没してちょうど55年。僕が初めて彼の演奏に触れたのは友人から借りたアナログ盤にて。ブラームスの交響曲第3番(49年Live)だったか、それともベートーヴェンの交響曲第6番「田園」(ウィーン・フィルとのスタジオ録音盤)だったか、そのあたりの記憶は曖昧だ。クラシック音楽を聴き始めて日の浅かった僕はまだまだ耳が肥えておらず、いわゆるモノラルの古い録音から匂い立つような独特の重苦しい響きに即効衝撃を受けた。評論家の出谷啓氏(懐かしい!今はどうされているのだろうか?)が「まるで幽霊が出るかのような『田園』交響曲」と評した不滅の表現が僕にとってはこれでなければならない必然性を持って眼前に現れたのである。今となっては唯一無二とは言い難いものの、それでも彼のこのスタジオ盤に耳を傾けている最中は「こうでなければならぬ」と確信がもてる音楽表現。第1楽章の標題となっている「田舎に到着した時の晴れやかな気分」という言葉とはまったく裏腹の深沈たる面持ちの主題提示とコーダの深々としたリタルダンド。それは、フィナーレの「祈り」の伏線であり、そこから醸し出される感動を考慮するとバランス的にこのテンポでなければならないのである。そう、コーダの祈りの瞬間を体感するために第1楽章と第2楽章「小川のほとりの情景」はこのテンポであらねばならないのである。

今夜はフルトヴェングラー独特のベートーヴェンの「田園」交響曲を聴こうと思った(なぜか命日に聴きたくなる最右翼)。でも、それはやめた。代わりに、いわゆるブラームスの「田園」交響曲。第1交響曲の完成に20年もの期間を要したブラームスが、わずか4ヶ月ほどで書き上げた第2交響曲。ブラームスの4つのシンフォニーの中でどの曲が好きかと問われたら、今なら交響曲第2番と答えるだろう。清々しく明朗な雰囲気、幸福感に満ち溢れた傑作。

ブラームス:交響曲第2番ニ長調作品73
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1948.3.22-25)

フルトヴェングラーが1948年にデッカに録音した珍しいスタジオ録音盤は、世評はあまり高くなく、評論家諸氏などからもほとんど無視されているような録音だと思うが、貧しい音の中からフルトヴェングラーのありったけの情熱が伝わる名盤であり、はじめて触れた時から僕にとって大切な音盤となっている。

ちなみに、カップリングのウィーン・フィルとの「コリオラン」序曲(1951.10.29Live)の神々しさはいかばかりか!それと、LP時代を髣髴とさせるこのジャケットがたまらなく良い。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>こういう時こそ個人の「頑張り」が功を奏する。
厭だ!! 絶対に
「がんばらない」鎌田 實
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%8C%E3%82%93%E3%81%B0%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E9%8E%8C%E7%94%B0-%E5%AF%A6/dp/4087475891/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1259612688&sr=1-1
フルトヴェングラーの命日でしたか!
じつはこの11月、毎日のように聴いていたのは、超有名なフルトヴェングラー指揮BPOの、ベートーヴェン交響曲第5番「運命」(1947年録音)でした(下のCDはリマスターが素晴らしい!)。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2556825
チャイコフスキー、マーラー、ショスタコ、ブルックナー、シベリウス・・・、「闇から光へ」の交響曲第5番って、どれも燃えます!
でも、そのコアになるのは、やっぱりフルトヴェングラーが指揮する「運命」です。
人間、光を求めて闇とどう闘うか、ベートーヴェン以降の交響曲の本流のテーマって、突き詰めればこのことに尽きるのでは?
岡本さん、「早わかりクラシック音楽講座」で初心に戻って、一度フルトヴェングラーの「運命」を取り上げてくださいよ! 
もし、この曲・この演奏が存在しなかったら、今日にでもクラヲタなんて、とっとと足を洗ってやりたいし、いくら岡本さんが鼓舞しようが、絶対に「がんばらない」!!
 

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
「がんばらない」ですか!
この本は未読ですが、よさそうですね。
そういえば、以前セミナーで「がんばります」とことある毎に言っていた学生に「がんばらなくていいから、具体的に動け」と叱咤激励していたことを思い出しました。何なんでしょうね、「がんばる」って。さだまさしは「関白失脚」の中で、最後「がんばれー、がんばれー、みんな、がんばれー」と歌っています。情けない歌詞の中であの「がんばれー」が光っているように僕は感じるのです。これも「闇から光へ」ですかね?(笑)
47年5月27日の「運命」ですか!しばらく聴いておりませんでした。あれは凄いですね!僕はグラモフォンのLPと初期に発売されたCDを持っています。最近はさすがにリマスター盤が出ても買いなおすほどの熱意は失せてしまっているのでご紹介のMYTOS盤は未聴です。
>人間、光を求めて闇とどう闘うか、ベートーヴェン以降の交響曲の本流のテーマって、突き詰めればこのことに尽きるのでは?
そのとおりですね。おっしゃるように一度クラシック講座でとりあげるべきですかね。検討します。
>もし、この曲・この演奏が存在しなかったら、今日にでもクラヲタなんて、とっとと足を洗ってやりたいし、いくら岡本さんが鼓舞しようが、絶対に「がんばらない」!!
笑。おっしゃることはよくわかります。この不滅の演奏を前にして僕も何もいうことはありません。「がんばる」必要ないですね(笑)。
※ところで、「タモリ2」聴きました。教養講座「音楽の変遷その①」―旋律の源とその世界的波及について、講師・中洲産業大学芸術学部西洋音楽理論 森田一義助教授、聴きました。あの頃のタモリはやっぱり最高ですね。当時僕はオールナイトニッポンで月曜日の中島みゆき、水曜日のタモリを毎週楽しみに聴いておりました(その後、木曜日にビートたけしが参入して、毎週3日は聴くことになるのですが)。ところで「その①」となってますが、その②以降は存在するのでしょうか?

返信する
雅之

えー、「タモリ2」早速聴かれたんですか!買われたんですか?(笑)
やっぱ面白いでしょ。
私は、もう1枚の大傑作「タモリ」
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%BF%E3%83%A2%E3%83%AA/dp/B000WPD30M/ref=pd_sim_m_1
共々LPを持っていましたが、手放してしまい、途轍もなく後悔していましたので、CDで復活した時には、懐かしさですぐ飛び付きました(笑)。
なお、教養講座「音楽の変遷その②」は残念ながら存在しません。
それにしても、あのころのタモリには毒があって、とんがってましたよね。今はすっかりビッグになって、丸くなっちゃいました、良くも悪くも・・・そう、まるでブーレーズの変化を見ているようです(笑)。
>その後、木曜日にビートたけしが参入して、毎週3日は聴くことになるのですが
私はおまけに迂闊にも土曜日の鶴光まで聴いてしまったので、こんな人間が出来あがってしまいました(爆)。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
買いました(笑)。
面白いです。あの頃のタモリはやっぱり最高です。
教養講座「音楽の変遷その②」はないんですね・・・。残念です。
>そう、まるでブーレーズの変化を見ているようです
あー、なるほど、いい比喩です。
>土曜日の鶴光まで聴いてしまったので、
鶴光も面白かったですよね。僕はたまにしか聴いておりませんでしたが。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む