ヴァント指揮ベルリン・フィルのブルックナー交響曲第4番(1998Live)を聴いて思ふ

bruckner_4_wand_bpo180ブルックナーの交響曲の中で最もポピュラーだと思われる交響曲第4番「ロマンティック」は、その流麗で美しい主題によって確かに多くの人々を惹きつける魅力に溢れるが、初演当時は決して無条件に受け容れられたわけではなかった。
音楽史上唯一無二の性質とでも表現しようか、音楽が新し過ぎたのである。
僕はこれまで幾度か実演を耳にするが、必ず心揺さぶられるのは終楽章。特に、コーダにおけるホルンによって回想される第1楽章第1主題の得も言われぬ懐かしさと崇高な響きにどんな時も釘付けになる。
しかしやはり、この楽章も当時の聴衆には理解し難かったようだ。

交響曲の短縮は時にブルックナー自身によっても行われた。81年2月に「第4」の初演が大成功を収めると、さっそく同年の12月10日にカールスルーエでモットルの指揮により再演が行われた。これはブルックナー作品のドイツ初演だったばかりでなく、弟子によるブルックナー演奏の第一号でもあった。批評家から皮肉たっぷりな攻撃を受けて気弱になっていたブルックナーは、再演に先立ってフィナーレに若干の短縮を施した。しかし他の曲でもそうだが楽器法に本質的な変更を加えることはしなかった。この演奏は大変な不評に終わった。弟子たちは師にそのことを伝えなかったが、ブルックナーの時代いまだ来たらずの感を強くした。彼の交響曲は当時の演奏家や聴衆にとってやはり長すぎた。それにブルックナー同様ヴァーグナー派だった弟子たちにとって、師の音楽を時代の趣味に合わせてヴァーグナー風の響きに作り変えるのは、本人のためにもなることだと思われた。80年代後半から今世紀の30年代まで、ブルックナーの交響曲の演奏と出版は、おおむねシャルク兄弟やレーヴェらによる改竄稿、あるは少なくとも彼らの影響が反映された形で行われたのである。
土田英三郎著「カラー版作曲家の生涯ブルックナー」(新潮文庫)P143

後世の僕たちの視点からするとシャルクやレーヴェの行為は明らかに悪質なものだということで「改竄版」なるレッテルを貼るが、とはいえ、ブルックナー本人が許可をしている点から考えると、これも当世風ワーグナー的アレンジ版ということで実に楽しく聴ける。
確かに原典版の響きに慣れた耳には異質に感じられるのだけれど。

ただし、レオポルト・ノヴァークは改訂の経緯を次のように推論する。

彼が献身的に彼に尽くしてくれる弟子たちの理想主義を認めて、彼らの忠告を受け容れたが、それに彼の保証を与えることは拒絶した、ということである。すなわち、彼のオリジナル原稿が「のちの時代に」有効となるはずだから、彼は署名しなかったのである。逆に、第4番の自筆原稿ではフィナーレ楽章のタイトル・ページに、印刷スコアとピアノ用編曲譜には短縮が採り入れられて「vi-de」(訳注:カットを指示する記号)と記されてもよいことを(初版にはない署名をして)、はっきりと書き留めているのである。
ブルックナー交響曲第4番変ホ長調ミニチュアスコア(音楽之友社)序文

僕はブルックナーの音の強弱の漸次的でない、突如として強くなったり弱くなったりする独特の音楽の流れに魅力を感じる。
その上、決して人工的でない、その内側にある自然のゆらぎが感じ取れる演奏に出逢ったときはなおさら。
ギュンター・ヴァントの演奏がいつもそうだった。

・ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(1878/80年稿)
ギュンター・ヴァント指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1998.1.30-2.1Live)

最晩年のベルリン・フィルとの演奏はいずれも超絶名演奏。あまりに機能美に過ぎる点に少々機械的な面を感じるといえば贅沢か。
その意味では、手兵北ドイツ放送響とのものが最高。

 

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