孤高の職人

mozart_bohm_vpo_1977.jpgプライドをかなぐり捨てなさいという言葉。悩まず助けを求めなさいというメッセージ。セミナーの中ではことある毎に参加者にお話してきたことだが、実はこれらは今の自分にこそ最も相応しい。自分軸はぶらさず、とはいえ手段を選ばず。
長く生きてくる間に雪だるまのようにこびりついた習慣化した「癖」を取っ払うのにはかなりのエネルギーを要する。行動パターンを変えることには不安がつきものだ。それを超えるには「勇気」しかない。まさに「限られた知識と不十分な証拠に基づいて行動を起こす勇気」である。

「ワークショップZERO」第1日目を終え、アシストしてくれているKさんと「フリーモント・カレー&デリ」で雑談を交えて1時間半ほど。実は彼女のお父さんとは面識がある。10月に拙宅で開催されたバースデー・パーティにフィリピンから一時帰国していたお父さんも参加されたから。そのお父さんはもう何年も前、家計が火の車であったとき、やりたくもない仕事をただ単に「稼ぐ手段」として、妙なプライドを捨ててやり切ったのだと。そのお陰で新たな縁ができ、次の仕事にも繋がったということだから世の中に無駄なことはひとつもないということ。

愚直に自身のスタイルを曲げずに、時間をかけ登り詰めていった巨匠。筆頭はギュンター・ヴァント。わが朝比奈隆もそうだろう。ニュアンスは少々違うものの、かつて日本で今では信じられないほどの人気を誇ったカール・ベーム翁もそうだ。先日のカフェ・ラントマンでの食事会の際、いつもお世話になっているO氏にカール・ベーム&ウィーン・フィルの貴重な実況録音テープをお借りしたことは書いた。しばらくまとまった時間がとれなかったので、そろそろじっくり聴いてみようとスピーカーの前に陣取ったところ、どうもカセット・テープデッキの調子が悪い。モーターの異音がし、回転ムラが生じているのかスピードが安定しない。ヘッドを消磁すれば解決するのかもしれないが、何せヘッド・クリーナーが手元にない。もはやテープデッキなど一般的には誰も所有していないだろうから誰かに借りるわけにいかないし、かといってクリーナーで解決するという保証もないのでそれを買うのも何だか馬鹿馬鹿しい。修理に出すとなると、部品の保管年数を大幅に過ぎているゆえ、場合によっては部品切れの場合もあるという(その場合は修理不可能になるのだと)。それほど機械を酷使してきたわけではないので経年劣化だろうから致し方なしなのだが・・・。

ということで疲れと渇きを癒すために、TDKコアからリリースされた77年の東京ライブを。

モーツァルト:交響曲第29番イ長調K.201(186a)
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」作品20
カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1977.3.11東京文化会館)

エフエム東京の音源を使用してのCD化。いわゆる放送をエアチェックしたものとは違って、当然編集作業を介しての「音」。それでも、生々しい音楽がしっかり収録されており、初めて聴いた時、ベーム&ウィーン・フィルの凄さに圧倒されるばかりだった。モーツァルトの交響曲の中で、地味ながら可憐な印象を残すこの第29番は僕が最も好きなもののひとつ。老ベームが思いのほかゆったりとしたテンポで、じっくりと推し進める演奏が輪をかけるように魅力を引き出してくれる。なお、余白にはブラームスの第2交響曲のゲネプロ(リハーサル風景)も収められている。

「・・・1933年来私の耳にウィーン・フィルの響きは常に若々しく、幸いなことに銀の輝きのように美しくあり続けています。とはいえ、私はルーティン・ワークに陥らないようにしています。もしかすると、皆さん見てのとおり、私が人々に語りかけるということに、私の秘密があるのかもしれません。昨日も申しましたが、聴衆はとても素朴で私が語りかけることを本当によく聴いてくれます。それは、私がルーティン・ワークをしないからです。つまり、私は常に新しい体験ができるよう試みているのです。良いときもあればそうでないときもありますが、私はいつでもすべてに最良のものを提供するよう努めています。・・・」(ゲネプロ、イントロダク
ションからベームの言葉)

まさに孤高の職人!!


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
ベームの77年東京ライヴ、どれも最高ですね! このころまでの指揮者は、実演とセッション録音とで、明確に姿勢を変える人が多かったように思います。クーベリックもテンシュテットもそうでした。
実演は、一回一回その時の興(きょう)に乗じた勢いが重要な、演劇やスポーツの試合、もっと言えばやり直しのきかない人生のようなもの。対するセッション録音は、満足のいくまで何十回でも撮り直しをする映画みたいなもの。どちらが良いか悪いかの話ではないのですが、両者は芸術の制作過程が根本的に異なり、結果テンションが変化するのは至極当然ですよね。ベーム&ウィーン・フィルのベートーヴェンやブラームスの交響曲全集などを聴くと、「レーコーディングなんか、かったるくてやってられるか! さっさと片づけちゃおうぜ!」という空気を、曲によっては何となく感じてしまいます、実演は燃え方が全然違いますもの!!
ベームのドイツものは、モーツァルトもベートーヴェンもブラームスもワーグナーもR・シュトラウスも、みんないいですよね。でもね、ドイツものだけではないんです。試しに、ちょっとチェコ・フィルとのチャイコフスキー第4交響曲のライヴ録音を聴いてみてください。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1952070
やっぱ実演のベームは凄いと、改めて確信を持てますよ!

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
確かにベームのスタジオとライブとの差は大きいですね。
ただ、僕は雅之さんほどベームのスタジオもライブもきちんと聴いて来なかったので、ちょっとこれからいろいろと聴かなきゃですね。残念ながらご紹介のチェコ・フィルとのチャイコも未聴です。しかし、おススメならば聴いてみます。
それにしても今年の初めに偶然ベーム&ウィーン・フィルの来日公演ライブのエアチェック・テープを聴かせていただいて度肝を抜かれたのがある意味ベームに心底興味をもった発端ですから、遅すぎたというのが本音です。
雅之さんにはベームの実演についていろいろとご教示いただきたいと思います。よろしくお願いします。

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