アンジェラ・ヒューイット ピアノ・リサイタル“The Bach Odyssey 4”

バッハの鍵盤作品こそ実演に触れねばならぬ。
アンジェラ・ヒューイットを聴いてあらためてそんなことを思った。

鍵盤楽器のためのパルティータは、バッハの世俗作品の中心の一角を成す作品群だが、6曲はいずれもが古典舞曲の枠を超えた、極めて精神性の高い音楽だ。しかも、時代を追うごとにその厳しさは増して行く。
それにしても、各パルティータを構成する舞曲群の異なる様々な表情に驚きを隠せない。その上、6つのパルティータはいずれもがその性格を異にするのである。
音のパレットの多彩さは、古今東西、おそらく他にはないもの。
今宵のヒューイットの演奏も、どれもが本当に正統でありながら、意識してかどうなのか、違った印象を与える美しいものだった。

特に、第6番ホ短調BWV830の峻厳な、人間技とは思えぬ崇高な音楽を、端正に、そして懸命に紡ぐピアニストの姿勢に僕はとても感動した。第7曲ジーグを締めた後の、ヒューイットの心なしか険しい表情が、特に第6番が全身全霊を込めての演奏であることを如実に示していた。力尽きたかのように憔悴し切ったその面持ちが、聴衆の拍手喝采とともにやがて満面の笑顔に変わる頃、果たして今夜のリサイタルが大成功の裡に終わったことを彼女はようやく悟ったのだろうと僕には感じられた。

この最後の「ジーグ」では、バッハは演奏者に究極の“精神的ヴィルトゥオーゾ性”を求め、まさに自分自身をも超えている。生き生きとしたテンポで演奏すれば、厳格な対位法も踊らせることができるはずだ。
~ヒューイット自身によるプログラムノート

「精神的ヴィルトゥオーゾ性」という言葉に納得。
そして、直後に奏されたアンコールの「前奏曲とフーガ」は、(ミスタッチがあったが)今夜の演奏が渾身の出来だったことを物語るようで、本当に静けさに溢れる美しい癒しの音楽が奏でられた。素晴らしかった。

アンジェラ・ヒューイット
“The Bach Odyssey 4”
2017年9月14日(木)19時開演
紀尾井ホール
J.S.バッハ:
・パルティータ第3番イ短調BWV827
・パルティータ第5番ト長調BWV829
休憩
・パルティイ長調BWV832
・パルティータ第6番ホ短調BWV830
~アンコール
・平均律クラヴィーア曲集第2巻より前奏曲とフーガ第9番ホ長調BWV878~フーガ

バッハの音楽は孤高だ。
音楽はヒューイットによって色鮮やかに奏でられるも、時に白黒、時に天然色を思わせる壮大かつ繊細な宇宙。
ヒューイットが「不当にも滅多に演奏されることがない」と嘆く、典雅な第3番イ短調の、天上からの響きの如くの調べに思わずため息を漏らした。あまりに美しい。
また、第5番ト長調の、大いなる愉悦と華麗な音楽にも心震えた。

こうなると、昨夜のリサイタル(“The Bach Odyssey 3”)を聴けなかったことが返す返すも無念。
ちなみに、ヒューイットはiPadの譜面を目の前に置いているのだが、この譜面がどうやら音を認識して自動で譜めくりをする機能が搭載されているらしい(フェアリー?)。昨今の技術の革新にも驚かされる。

 

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4 COMMENTS

畑山千恵子

 私も13日、14日と続けて行きました。13日も聴き応え十分の内容で、どちらもブログ「音楽・歌舞伎アラカルト」に出ておりますので、よろしくお願いいたします。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様

素晴らしかったですよね!とはいえ、想像以上に客の入りがいまひとつで驚きました。
もったいないことです。

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