コルトレーンの「メディテーション」

coltrane_meditations.jpg本日のワークショップでは、集中的に実習を提供することで通常より時間を1時間半ほど短縮した。受講いただいた皆様と「濃い」時間を共有しながら、ひとつひとつじっくりと進める。

「人間力」という誰しもが潜在的に持つ能力が、「ありのままの自分を知り、認め、受け容れる」ところから開かれるということがよくわかる。カール・ロジャース博士は「自分自身を受容することで変化と成長が起きる」と言うが、この「自分自身を受容する」ということが実はなかなか難しい。

過去を掘り下げ、プラスの体験もトラウマとなるようなマイナスの体験も思い出し、どっぷりと浸る。そして、そういう経験の延長に「今」があることを認識する。そう、今の自分自身を肯定するには、過去のすべてを肯定することが大切なのである。

ジョン・コルトレーンの演奏はいつどこの会場でも、全精力を傾けた激しい長時間演奏だったという。休憩することで維持してきた「意思」が途切れることを嫌ったトレーンはともかく何時間も吹き続けた。彼こそ「今」を生きる求道者だったのである。

コルトレーン信奉者で、彼の来日ツアーに同行した新井和雄氏の遺稿には、心底愛したコルトレーンの音楽について大いなる「想い」が書かれている。僕が所有しているのは「ジャズ批評」の第46号、1983年発売の特集である。

新井氏は言う。
「よくコルトレーンの初期は好きだが、インパルスの後半はわけがわからなくて嫌いだという人が多いようだが、僕はインパルス以降の音が、ほんとうの彼の音らしいと思う。それまではモンクやディクスター・ゴードンの影響を受けている。『至上の愛』もいいが、『バルガード・アゲイン』の(ネイマ)の出だしの音はどうしようもないほどすばらしいし、『メディテーション』は激しさの中に愛や、優しさが充分に感じられるのだ。」

確かに、『アセンション』以降、フリー・ジャズに走ったコルトレーンの音楽は難しい。一般的には受けつけ難い「混沌」が全てを支配する。そういう晩年のコルトレーンの作品の中でも、新井氏が言うように「底知れぬ愛情」と「深遠な祈りの感情」を湛えたアルバムがそのタイトル通りの内容を持つ『メディテーション』なのである。

1曲目「父と子と聖霊」における驚天動地の緊張感と、3曲目の「愛」における心の奥底にまで訴えかける、愛撫のようなサックスの音とリズム隊の妙なる絡み具合から、このアルバムが当時のコルトレーンの「心」をリアルに表していることがよく理解できる。

John Coltrane:Meditations(1965.11.23録音)

Personnel
John Coltrane
Pharoah Sanders
McCoy Tyner
Jimmy Garrison
Elvin Jones
Rashied Ali

4 COMMENTS

雅之

おはようございます。
確かに、『アセンション』以降、フリー・ジャズに走ったコルトレーンの音楽は難しい。
そうですね。
このころ、コルトレーンやジョージ・ハリソンら、最先端のジャズやロックのミュージシャンに多大な影響を与えたインドのシタール奏者、ラヴィ・シャンカールとは一体何者で、何が当時彼らの心を捉えたのか、これが最近の私の、最大の関心事です。
George Harrison’s sitar-lesson with Ravi Shankar
http://www.youtube.com/watch#v=erLZ-zW9Ti4&feature=fvw
George Harrison – Gopala Krishna
http://www.youtube.com/watch#v=X7eFQMakhDE&feature=related
『メディテーション』をシャンカールに否定され、再びコルトレーンの心はインドより、ルーツ、アフリカに傾いていき死を迎えたのでしょうか? アフリカとインドへの愛は、彼の心の奥底では、最期まで引き裂かれたままだったとしか私には思えません。その矛盾の混沌が、『アセンション』以降の最大の魅力ではないでしょうか。
思ったんですけど、「愛」、「愛」と連呼したがる人に限って、じつは「愛」に満たされない人なのではないのでしょうか? 晩年のコルトレーンも、そのひとりだったかもしれません。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
確かに60年代にあらゆる一流アーティストが影響を受けたラヴィ・シャンカールについては興味深いですね。本当に何が彼らをそうさせたのか知りたいところです。
>その矛盾の混沌が、『アセンション』以降の最大の魅力ではないでしょうか。
まさに!
このところ、グスターヴ・ホルストのバイオグラフィーを読むことで彼の人生についていろいろと勉強になっています。
先日の記事でホルストを一発屋として半ば冗談、半分本気で採り上げた際、雅之さんからお叱りのコメントをいただきまして、勝手な憶測で意見を述べるのはよくないなと思いました。
ホルストは青年時代、インド哲学やサンスクリット文学に興味を抱き、その思想が彼の音楽に相当の影響を与えているようです。作曲家になった当初のバイブルはワーグナーであり、バッハだったようですが、円熟期以降の彼の音楽が東洋思想の影響下にあることを知り、俄然興味をもちました。僕は残念ながら、彼の作品をほとんど無視してきたのでこれから本気で取り組みたいと思っています(笑)。
シャンカールに限らず、インド思想、インド芸術の魅力って説明しがたいですが、心の奥底に響く何かがあると思います。
>「愛」、「愛」と連呼したがる人に限って、じつは「愛」に満たされない人なのではないのでしょうか?
そのとおりですね。コルトレーンも満たされなかった人だと思います(一流といわれるアーティストは多かれ少なかれそういうところがあるのでは?)。

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たんの

こんばんは。
理屈ではなく、ジョン・コルトレーン大好きです!
曲名は忘れましたが、時々口ずさんでいます。。

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岡本 浩和

>たんのさん
こんばんは。
コメントありがとうございます。
コルトレーンは最高ですよね。
>曲名は忘れましたが、時々口ずさんでいます。。
へぇ、そうなんですか。意外です(笑)。
ひょっとすると”My favorite Things”ですかね??

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