The New Miles Davis Quintet

寒い。冷凍庫の中にいるんじゃなかろうかと思うほど。春を間近にした大地が蠢き始めたのか、真冬の空気をぶり返したかのような。こんな時はジタバタせずに家でゆっくりとジャズ・ミュージックでも。
しばらく聴いていなかったマイルスを今夜も繰り返し。
確かマイルス・デイヴィスがジョン・コルトレーンをメンバーに初めて迎え入れスタジオで録音したものじゃなかったか(詳細を調べるのが今日は面倒なので曖昧な記憶を辿りながら半ば推測だけで記事を書くことにする)。

この音盤におけるコルトレーンはいかにもフレッシュマン。
どの楽曲もほとんどマイルスのミュートを効かせたトランペットが物をいうが、時折挟み込まれるコルトレーンのソロは後年の自信ありげで余裕たっぷりのものと明らかに異なり、良く言えば謙虚に、悪く言ってしまえば尻込みするように遠慮がち。でも、そんな時代があったからコルトレーンはコルトレーンでいられるのであり、ジャズ愛好家から神のように崇め奉るのだと断言できる。というのも、そうはいっても後年の自由奔放さはところどころに散見され、偉大なるサックス奏者の誕生を予見させるだけのものがあるから。

The New Miles Davis Quintet(1955.11.16録音)

Personnel
Miles Davis(trumpet)
John Coltrane(tenor sax)
Red Garland(piano)
Paul Chambers(bass)
Philly Joe Jones(drums)

このころのマイルスは至極真面(笑)。それでいて挑戦的。いわゆる「モダン」の頃のマイルスは誰にでも安心してお薦めできる(そういう僕は後のエレクトリック・マイルスはもちろんのこと少々アバンギャルドな彼も余裕で受け容れられるのだけれど)。すべてに勢いがあり、若きエネルギーに満ち溢れるところが素晴らしい。

マイルスのオリジナル・ナンバー”The Theme”を聴きたまえ。緊張感のあるChambersのベース・ソロの後のマイルスの美しいアドリブ。ここには作曲者としても他の追随を許さないであろうマイルス・デイヴィスの天才の萌芽が既に見られる。

ところで、本日、すみだ学習ガーデン・さくらカレッジの「早わかりクラシック音楽入門講座」第10回を終えた。テーマは「楽器で聴くクラシック」。2002年別府アルゲリッチ音楽祭でのデュトワの棒による「展覧会の絵」、マイスキーによるバッハの「無伴奏チェロ組曲」などを観た。
そして、多くの方に次期講座もとるつもりだとおっしゃっていただける。皆様に喜んでいただけているようで何より。


6 COMMENTS

雅之

こんばんは。
岡本さんのように、毎日毎日軽く、あっちこっち軸をぶらしながらいろんなジャンルの音楽をつまみ喰いするという芸当は、私はようやりません(笑)。
「いったん惚れた曲にはどこまでも命懸け」です。そんなに簡単に気分が切り替ってたまるかってんだ、ねえ、ふみさん。

というわけで、今夜のコメントもショスタコーヴィチ「24のプレリュードとフーガ」ですわ。
ショスタコーヴィチ:24のプレリュードとフーガ  キース・ジャレット
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81-24%E3%81%AE%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%A8%E3%83%95%E3%83%BC%E3%82%AC-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88-%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B9/dp/B00005FHOT/ref=sr_1_1?s=music&ie=UTF8&qid=1329568998&sr=1-1

キースの演奏は、「クラシック曲としての構造的な捉え方が弱いのではないか」などと、わかったような口で批判をするべからず。

吉松隆先生による国内盤の説得力あるライナーノーツ「キース・ジャレットのアプローチ」より

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 この20世紀の〈平均律クラヴィーア曲集〉へのキースのアプローチは、とても真摯で軽やかだ。バッハの方は、ジャズに通ずるところがあるといってもジャズ発生の遥か200年前の作品だが、ショスタコーヴィチは現代の作曲家として当然ながらジャズの影響も潜んでいて、それがロシア風な歌や現代的な歪んだ暗さと混じり合いながら、時々鮮やかに開放されるのが心地よい。
 ひそやかに始まる冒頭の第1番ハ長調のプレリュードから、重厚長大に終わる第24番ニ短調のフーガまで聴き所を挙げてみよう。
 性格的な味付けはプレリュードの方が鮮やかで、個性的な曲が少なくない。叙情的な第1、5、16、23番に始まり、ロシア風の趣のある第4、9、12、20、24番、軽やかな第7、11、15番、疾走する第2、10、21番は魅力的。第8、17、22番のユダヤ風の不思議な世界、第6、14番の暗く悲劇的な影、第13番の優しげな顔、第18番の陰翳のある歌、第19番の奇妙に神秘的な味も印象的だ。
 フーガはおおむね穏やかなテンポでじわじわ広がっていく楽想だが、中でも第7、13、18、22、24番のフーガの歌心は素敵。一方で、第2、3、15、17、21番の軽やかリズムや、第5、9、11、12番の鮮やかに疾走するアレグロも聴きものだろう。
 いずれも、低音が重たくならないような微妙な配慮と、独特な音色感による繊細なタッチが、この曲の重苦しさや冗長さを消し去り、優しげな哀歓を持った叙情的な音楽に昇華させている。
 共感と慈愛に満ちて静やかに紡ぎ出されて行く美しい音楽が、ここにはある。

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実際、10年ほど前、この盤を聴いた後に、やはりキースの名盤「ステアケイス」
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A2%E3%82%B1%E3%82%A4%E3%82%B9-SHM-CD-%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88/dp/B001DKBKNC/ref=sr_1_3?s=music&ie=UTF8&qid=1329569907&sr=1-3
を聴いて、クラシックとジャズ、ふたつの世界が見事に融合し、なにも違和感がありませんでした。奇跡でした。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。

>軽く、あっちこっち軸をぶらしながらいろんなジャンルの音楽をつまみ喰いするという芸当は、私はようやりません

そもそもマイルスの一連の作品に一層の興味を僕に抱かせたのは菊地成孔氏の著作のお陰でありまして、
http://classic.opus-3.net/blog/?p=2694
ということは一昨年こともあろうに雅之さんが菊地さんの本を勧めたことがきっかけなのです。それにまた最近では「さわり」などという面白いノンフィクションを雅之さんが薦めてくれたおかげで
http://classic.opus-3.net/blog/?p=9012#comments
鶴田錦史氏や横山勝也氏らに開眼し、彼らの作品も時間を見つけて聴き始めています。あっちこっち軸をぶらしながらとおっしゃりますが、あれもこれもすべて雅之さんのせいなのです!!

という冗談はさておいて(笑)、ショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」を理解するにあたり、やっぱり同時代のジャズについてもより深めなきゃという思いから、あの作品が生み出された1950年代の空気をつかもうとマイルスのこのアルバムを取り出したのでありまして。
さらには、ここ数日一連の70年代のプログレについても、あるいはルー・リードについてもショスタコーヴィチ最晩年のやはり同時代的要素をつかみとりたい一心で聴いているのです。(前奏曲とフーガは50年代の作ですが、ショスタコの一生を覆うだけの深さがあるように思います)
ちなみに、ELPもクリムゾンも1973年のもの、ルー・リードは1972年の作品です。この時期ショスタコは重要作はほぼ書き上げておりますが、弦楽四重奏14,15、そしてヴィオラ・ソナタなど諦念の境地にある傑作を創作していた頃で「全体観」という意味で見逃せません。
そして、同じく「前奏曲とフーガ」はバッハの影響下にあるわけですから、中世の音楽を耳にすることも理解を深めるために当然重要なことなのです。

ということで、毎々好奇心を刺激していただいている雅之さんには感謝をいたしております。
ご紹介いただいたキース・ジャレット盤は残念ながら未聴ですが、それにしても吉松先生のライナーノーツが傑作ですね。(吉松先生も、バッハの方は、ジャズに通ずるところがあるといってもジャズ発生の遥か200年前の作品だが、ショスタコーヴィチは現代の作曲家として当然ながらジャズの影響も潜んでいて、とおっしゃってるじゃないですか)

>クラシックとジャズ、ふたつの世界が見事に融合し、なにも違和感がありませんでした。奇跡でした。

ということなのです。
よって、「軽く、あっちこっち軸をぶらしながらいろんなジャンルの音楽をつまみ喰いするという芸当」ではありません、念のため(笑)。

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雅之

こりゃまた、失礼をばいたしました!!

因果はめぐる糸車、明日はわからぬ風車、臼で粉引く水車、我が家の家計は火の車、車は急には止まれない、すべて世の中堂々巡り、

さあ、さあ、お立会い(笑)。

返信する
湖の麓より

はじめまして

マイルス大好きです

でももっとコルトレーンが好きかな

今の時代にこういう大物はいないですね

残念なことです

返信する
岡本 浩和

>湖の麓より様
こんばんは。
コメントをありがとうございます。
マイルスもコルトレーンも最高ですよね。
今後ともよろしくお願いいたします。

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