ボザール・トリオのモーツァルト三重奏曲K.496(1967録音)ほかを聴いて思ふ

遠心力と求心力の拮抗するトリオ二様。
その一、ビル・エヴァンス率いる新しいトリオによるモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのステージの記録。
リハーサルなしの一発録りだというコンサートの模様は、どの瞬間も丁々発止、火花を散らす。エヴァンスとゴメスの鉄壁のコンビに、新たに加わったディジョネットが完全なるドラムスで絡むという奇蹟。

私は、まずベーシストとの関係を築くことに神経を集中させる。そしてそれがいったん実現できれば、私とベーシストは“ひとり”になり、そのうえでドラマーとの関係を築く。それが私にとっての“トリオ”ということになる。これは順番のようなもので、つまり私にとって、最初にベーシストとの関係が重要であり、その土台がなければ、そこにどんなに優秀なドラマーが加わっても、私が理想とする”トリオの音楽“にはならない。その意味で、最終的にはドラマーがすべてを決するともいえる。
中山康樹著「ビル・エヴァンス名盤物語」(音楽出版社)P103-104

リーダーに重要な遠心力と求心力のゼロ・ポイントは、3人目が鍵を握るということだ。3点がひとつになるコツがビル・エヴァンスのこの言葉にすべて含まれるように僕は思う。

チャールスと一緒の時は、ジャックは全面的にフリー・スタイルを演奏していて、多くの人がどうして彼を選んでグループに参加させようと考えたのか本気で不思議がっていた。でもジャックはとても知的で、音楽的に広い視野を持っている。彼は美しく調和しているし、非常に創造的な心を持っている。彼は他のドラマーなら考えつかないような、彼にとても合っている特別なものを持っている。
ピーター・ペッティンガー/相川京子訳「ビル・エヴァンス―ジャズ・ピアニストの肖像」(水声社)P219

マイルス作「ナーディス」でのジャックのドラム・ソロに感応するビルの濃密なピアノ・プレイが素敵。そして、続くガーシュウィンの「愛するポーギー」での夢見るようなピアノの主題に恍惚。血の通う、阿吽の呼吸の、今まさに目の前で繰り広げられんとする演奏に僕は言葉を失い、茫然と立ち尽くす。

・Bill Evans At The Montreux Jazz Festival (1968.6.15Live)

Personnel
Bill Evans (piano)
Eddie Gomez (bass)
Jack DeJohnette (drums)

この伝説のトリオはわずか数ヶ月の活動期間を終え、結果的に空中分解している。これほどに完璧なトリオは、おそらく崩壊も早いということなのだろう。

遠心力と求心力の拮抗するトリオ二様。
その二、1967年のボザール・トリオ(初代)。モーツァルトの2つの作品が、メナヘム・プレスラーを中心とする3人の名手たちによって瑞々しく表現される。何という愛らしさ。プレスラーのピアノは決して主張し過ぎない。ギレのヴァイオリンもグリーンハウスのチェロも悠揚たる響きで、各々がまろやかに融け合うのである。

モーツァルト:
・ピアノ三重奏曲変ロ長調(ディヴェルティメント)K.254
・ピアノ三重奏曲ト長調K.496
ボザール・トリオ
メナヘム・プレスラー(ピアノ)
ダニエル・ギレ(ヴァイオリン)
バーナード・グリーンハウス(チェロ)(1967録音)

K.496第1楽章アレグロの主題はいかにもモーツァルト的愉悦に富むもので、ここでのプレスラーのピアノにはモーツァルトへの尊敬の念と、彼の音楽に対する愛情が見事に刻まれる。伊熊よし子さんによるインタビューでの老巨匠の語った言葉が素敵だ。

どんな形で音楽にかかわるにしても、たとえ小さな村の音楽の先生になったとしても、大ホールで演奏する人と同じくらい音楽に対して愛情がなければいけません。私はそれを教えようとするのです。そのためには、自分が音楽に愛情を感じなければなりません。演奏会というのは、自分が楽器を弾けるのだと証明するための場ではけっしてありません。自分の音楽に対する愛情を表現する場なのです。これが、私がもっとも教えたいことなのです。
音楽ジャーナリスト&ライターの眼 ―今週の音楽記事から―

また、第2楽章アンダンテは、当時絶頂から転がり落ちつつあるモーツァルトの不安(あるいはあまりに多忙であるがゆえの鬱積?)が投影されるようで、その哀感が3人の名手により美しくとらえられている。さらに、主題と6つの変奏から成る終楽章アレグレットの煌くピアノの音色の妙!!

マクロ・コスモスへの拡張とミクロ・コスモスへの収斂。
強烈な磁場を創出するトリオの集中力は本当に凄まじい。

 

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