人真似?!

beethoven_quintet_gulda.jpg愚直に継続してゆくことは大切なことだが、常に新しい視点を持ち、聴く者、観る者が驚くような仕掛けを備えることがより重要だ。ここのところ「講座」の入りが芳しくない。特にホームページ以外で宣伝しているわけじゃないので仕方ないといえばそうなのだが、さすがにまる3年もやるとマンネリ化し、飽きが生じるのかもしれない、そろそろ新機軸を打ち立てないといけないかなと感じている。

第38回「早わかりクラシック音楽講座」
入門者といえども、クラシック音楽好きだと名乗るには少なくともベートーヴェンの9つの交響曲はものにしないと話にならないと僕は考える。講座をスタートして4年目に入るが、第5番、第9番「合唱付」、第6番「田園」、そして前々回の第7番に引き続き、今回は革命的名曲第3番「英雄」を採り上げた(講座中でようやく5曲を聴いたことになる)。

1795年頃から難聴の兆候を感じ始め、肉体的に悩みを抱えるようになるベートーヴェン。1800年を越える頃から病気がいよいよ悪化し、1802年には最悪の状態に陥る。失恋の痛みという精神的なショックも重なり、その年10月には2度にわたって、後に「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる遺書を認めるのだが、自身の心の内のすべてを手紙に託すことで苦悩が随分癒えたのか、自殺の危機にあった彼の精神状態は持ち直し、それどころか以後数々の傑作を生み出すことになる。中でもその翌年から推敲されてゆく「エロイカ(英雄)」シンフォニーの斬新さ、そして外に向かって拡がるエネルギーはいかばかりだろうか。

天才はいつまでもくよくよ悩み続けたりはしない。悩みがあるなら一気に解放し、そして次の新たな目標に向かい、人生を謳歌すべく前向きに行動する。「エロイカ」における新機軸、聴衆をあっと驚かせる仕掛けは何だったのか?ハイドン、モーツァルトと継承されてきた古典派ソナタ形式を決して潰すことなく、幅を広げ、奥行きを深めたこと。そしてホルンやトランペット、またティンパニを躍動的に使用したこと、さらには各楽章に一層の個性をもたせたこと(例えば第2楽章の葬送行進曲、第3楽章にスケルツォを初めて置くなど)。

既成の枠を順守しながらも、新しいことに果敢にチャレンジする姿勢。今回の講座中、話をしながら自身の中に得た気づきがそこにある。どうすればお客様は喜んでくれるのか?そこに意識をおいて常に「新しくする」ことを怠ってはならない。

ところで、200年前、著作権の概念がなかった時代、音楽家はどうやら他人の作ったメロディを勝手に使い放題、アレンジを施し、いかにも自分の作品として売り出すということがよくあったようだ。とても自由、鷹揚な時代。ベートーヴェンが難聴を発症し始めた頃に書いたピアノと管楽のための五重奏曲を聴いていて、どこかで聴いたことがあるなと思った。第3楽章がモーツァルトのピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482のフィナーレとそっくり・・・。ベートーヴェンも人の子なんだ・・・。

人真似って悪いことじゃないかも。そうやって最終的に自分の形を作っ
ていけるなら、人様からいただくというのもありかな、とここのところ思う。発明というのはそれまでに存在するものの継ぎ接ぎのようなものだから。

モーツァルト:ピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調K.452
ベートーヴェン:ピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調作品16
フリードリヒ・グルダ(ピアノ)
ウィーン・フィルハーモニー管楽アンサンブル


8 COMMENTS

雅之

おはようございます。
>第3楽章がモーツァルトのピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482のフィナーレとそっくり
なるほど!です。
そこで閃きました。「英雄」第3楽章中間部は、有名なホルン三重奏・・・、普通オーケストラでホルンは2本か4本なのに、なぜこの曲だけ3本なのか?
ここからは私の大胆な仮説なのですが、この交響曲も、フリーメーソンと関係があるのではないでしょうか?
・・・・・・<「魔笛」とフリーメイスン>
3人の僧侶、3人の侍女、3人の童子、3人の奴隷という人物設定や三重唱や三重奏が多用されているのは、フリーメイスン・コードが3という数字であるからである。序曲では3つの和音が連打されるが、これが大きな印象を聴く者に与える。・・・・・・(下のサイトより)
http://homepage2.nifty.com/pietro/storia/mozart_zauberflote.html
「英雄」も交響曲第3番、第3楽章のホルン三重奏・・・、「3」と密接に関連がありますよね。この曲のホルンには、重要な意味の暗号が託されているのではないでしょうか?
そうであれば、第1楽章440小節~で1番トランペットを途中からオクターヴ下げた理由も、第12倍音を嫌ったことの他に、この曲全体を通して、ホルンをプロメテウスを象徴する楽器として主役化したかったのではないかという、金子健志氏の説も、俄然説得力を増します。ベートーヴェンは音色的にも音量的にもホルンを圧倒してしまうトランペットの高音を意識的に避けたという・・・。(レコ芸 究極のオーケストラ超名曲徹底解剖 金子健志による「英雄」についての解説文より)
モーツァルトの本当の絶筆は「レクイエム」ではなく、ホルン協奏曲 第1番だというのが、近年の定説です(下のCDでは、ジュスマイアーとレヴィンの二つの補筆完成版のほか、ニーノ・ロータが書いた緩徐楽章も聴けます、演奏も含め、お薦めです)。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3375534
丸っこいホルンは、平和の象徴なのかもしれません(笑)。

返信する
雅之

お名前を誤記いたしました。
×金子健志氏
○金子建志氏
お詫びいたします。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
モーツァルトほどその側面については語られていないように思いますが、ベートーヴェンもフリーメイスンだったらしいですね。そもそもシラーの「歓喜の歌」はフリーメイスン賛歌ですから、当然といえば当然なんですが・・・。
それにしても「エロイカ」のフリーメイスン関係説、これは!!というくらい信憑性ありそうですね。
面白いサイトを見つけました↓
http://okwave.jp/qa/q3017642.html
>モーツァルトの本当の絶筆は「レクイエム」ではなく、ホルン協奏曲 第1番だというのが、近年の定説です
そうなんですね?!それは知りませんでした。確かにホルン協奏曲第1番は実は晩年の作だという説は知ってましたが、絶筆だったとは!!あのポピュラーな音楽の中には27番のコンチェルトやクラリネット・コンチェルトに通じる「純白さ」が感じられますよね。ご紹介のCD未聴ですので、聴いてみます。ありがとうございます。

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雅之

ご紹介のサイト、勉強になりますね。
変ホ長調の件については、今回ご紹介の、モーツァルトとベートーヴェンの各「ピアノと管楽のための五重奏曲変ホ長調」もそうですね。
「エロイカ」が、ホルンに最適なこの調であることからも、ベートーヴェンがホルンを主役として考えていたことは、明らかですね(※再度、吉松先生のサイトを参照のこと)
http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2009/07/post-68e5.html
第1楽章コーダでトランペットのテーマが後半消える謎も、氷解しました。ホルンを主役にしたければ、当然トランペットは目立ち過ぎてはいけませんものね(笑)。
「ホルン」「3」「変ホ長調」とくれば、ブラームスのホルン三重奏曲変ホ長調作品40
http://classic.opus-3.net/blog/cat29/post-386/#more
もフリーメイスンと関係付けたくなりますが、いかがなものでしょう?(笑)

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
>第1楽章コーダでトランペットのテーマが後半消える謎も、氷解しました。ホルンを主役にしたければ、当然トランペットは目立ち過ぎてはいけませんものね
確かに!そういうことだったんですね!
>ブラームスのホルン三重奏曲変ホ長調作品40もフリーメイスンと関係付けたくなりますが、いかがなものでしょう?
それはどうでしょうか??
ブラームスは単にベートーヴェンの影を追っていただけなんじゃないですかね(笑)
ブラームスまでフリーメイスンだったとしたら、世のメジャーな作曲家はほとんどフリーメイスンだということになりそうですが・・・。
ところで、変ホ長調の曲って名曲が多いですよね。僕は専門的によくわからないのですが、高校生時分から「変ホ」の曲が自分にマッチするんだということに気づいていました。何だか宇宙的な拡がりを感じるのです。

返信する
雅之

こんばんは。
>ブラームスは単にベートーヴェンの影を追っていただけなんじゃないですかね(笑)
ごもっとも!! 調子に乗り過ぎました。
>変ホ長調の曲って名曲が多いですよね。
>何だか宇宙的な拡がりを感じるのです。
「調号が3つであることから、古くから三位一体につながるとされた。五度圏の図で一番左に位置しており、最も♭系(変種、荘厳さ)の強い調性をもっている」ということらしいですね(『ウィキペディア』「変ホ長調」の項より)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%89%E3%83%9B%E9%95%B7%E8%AA%BF
面白いのは、上記「変ホ長調」の項より「変ホ長調の曲の例」でも、『ウィキペディア』「ホルン」の項より「ホルンが活躍する楽曲の例」でも、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%B3
ベートーヴェン「英雄」とともに、「ウルトラセブンのうた」(特撮ドラマウルトラセブン主題歌、冬木透)が出てくること。
まさに「英雄の調」に相応しい曲であり、変ホ長調に「宇宙的な拡がりを感じる」のは、ひょっとすると岡本さんも私も、幼少時代の「ウルトラセブンのうた」での刷り込みが、何パーセントかは含まれているかもしれませんね(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
>面白いのは、上記「変ホ長調」の項より「変ホ長調の曲の例」でも、『ウィキペディア』「ホルン」の項より「ホルンが活躍する楽曲の例」でも、ベートーヴェン「英雄」とともに、「ウルトラセブンのうた」(特撮ドラマウルトラセブン主題歌、冬木透)が出てくること。
なるほど!!セブンもEs-Durだったんですね!!
いやぁ、あの曲は本当に名曲だと思いますし、子どもの頃から妙に好きでしたから。そういうことだったとは・・・。
>ひょっとすると岡本さんも私も、幼少時代の「ウルトラセブンのうた」での刷り込みが、何パーセントかは含まれているかもしれませんね
確かに!!(笑)

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