またしてもトリプル・コンチェルト

beethoven_chung_trio_concerto.jpg駄作だと信じ込んできた作品でも、視点を変えてじっくり聴き込んでみると意外に「良さ」を発見できるものである。特に、クラシック音楽というジャンルにおいては、若い頃に読んだり聞いたりした評論家の言葉や一般的な見解に良し悪しの感度を左右されることも多い。ベートーヴェンの三重協奏曲などはその最たる例で、誰もが信じて疑わないベートーヴェンの失敗作だという定説をずっと鵜呑みにしてきた。

しかし、ベートーヴェンともあろう男がわざわざ凡作を出版するのだろうか?正規の作品番号をもつ楽曲ゆえ、半端な気持ちで創ったとは思えないし、やっぱり何か「意味」が隠されているのではないか、そんなことも一方で考えるようになった。

あれこれ勝手に推理し、そして空想し・・・、何百年も前の音楽を聴く醍醐味、楽しみはそんなところにもある。どんな音楽であれ、そこには人間が介在するのだから、それを生み出した作曲家の思考や癖、そして成育歴、体験などを深読みしていくことはとても面白い。

何事も「体感」と「理論」が合わさって初めて真の「知識」になる。音楽についてもそう。最低限の理論を知って聴くのとそうでないのとでは大きな違い。あるいは、それが創作された時代の背景、作曲家の人となりを知って聴くと音楽の真髄、真理がより一層確かになる。

今宵もトリプル・コンチェルト。

ベートーヴェン:
・ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲ハ長調作品56
・ロマンス第2番ヘ長調作品50
・ロマンス第1番ト長調作品40
・ピアノ、フルートとファゴットと管弦楽のためのロマンス・カンタービレホ短調Hess13
チョン・キョンファ(ヴァイオリン)
チョン・ミュンファ(チェロ)
パトリック・ガロワ(フルート)
パスカル・ガロワ(ファゴット)
チョン・ミュンフン(ピアノ)指揮フィルハーモニア管弦楽団

チョン・トリオの三重協奏曲は思った以上に大人しい。姉弟関係ゆえのいかにも予定調和的な音楽作りが昨日のハイドシェック、トルトゥリエ&フェラス盤に比べて少々物足りない(この有名な韓国三姉弟は余程仲が良かったのだろう)。この音楽にはソリスト各人が「自由になること」が不可欠だ。協演ではなく競演でなくてはならぬ。

ところで、ベートーヴェンが16歳の時に書いたとされる「ピアノ、フルートとファゴットと管弦楽のためのロマンス・カンタービレホ短調Hess13」が興味深い。まさか既にフリーメイスンの会員だったわけでもなかろうが、この時すでに楽器を違えての三重協奏曲のアイデアを持っていたということ自体が驚異的。結局コンチェルトの一部しか完成されることはなかったようだが、後のトリプル・コンチェルトへの布石になっただろうことは間違いない。


2 COMMENTS

雅之

>16歳の時に書いたとされる「ピアノ、フルートとファゴットと管弦楽のためのロマンス・カンタービレホ短調Hess13」が興味深い。まさか既にフリーメイスンの会員だったわけでもなかろうが、この時すでに楽器を違えての三重協奏曲のアイデアを持っていたということ自体が驚異的。
そうですね。
《ピアノ三重奏曲第1番 変ホ長調 Op.1-1(1794年)、ピアノ三重奏曲第2番 ト長調 Op.1-2(1795年)、ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 Op.1-3(1795年)、以上Op.1の3曲セット》や弦楽三重奏曲第1番 変ホ長調 Op.3(1794年)
Op.(Opus 作品番号)はベートーヴェン自身が作品の発表の際に付した番号ですしね、 三重奏曲のOp.1の3曲セットとか、Op.3とかの、「3」との関連や、Op.1-1やOp.3の変ホ長調についてなんかも、何となく臭うんですよね。
トリプル・コンチェルトも特にそうですが、曲に秘められた何かがあるのでしょうね。
ご紹介の盤は残念ながら未聴です。

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岡本 浩和

>雅之様
お疲れ様です。
>「3」との関連や、Op.1-1やOp.3の変ホ長調についてなんかも、何となく臭うんですよね。
トリプル・コンチェルトも特にそうですが、曲に秘められた何かがあるのでしょうね。
確かにご指摘の楽曲についても何かありそうですね。じっくり聴いてみたくなりました。

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